そっと、髪を撫でる。以前よりも滑らかな手触りの灰色の髪。
「もう、怖ろしくはないか……?」
私の膝で目をつむっていたはずのコハク様が目を開けて、私を見上げてくる。
コハク様は、依然とお姿が変わった。潰れていた眼は開眼して、漆黒の瞳が金の瞳と対になって私を見上げてきていた。
「すみません、起こしてしまいましたね」
「良い。気にするな。どうせ法吉が起こしに来る頃だ」
コハク様の手が伸びて、私の頬に触れる。
隻腕ではなく両腕で、翼と癒着しない人の腕だった。
片翼は背中に移り、前に仰向けで寝にくくなったとぼやいていたのが可笑しかった。でも、気持ちは痛いほどわかった。
「コハク様は誤解なさってます。私は、以前の雛鳥のようなお姿も好きでしたよ」
「嬉しいことを言ってくれる」
神との祝言。神との契り。魂ごとの結びつき、交わり、一つとなる。
私の虹彩も今、コハク様と同じ黒と金色をしていた。
「その体には慣れたか?」
コハク様が、私のふくらはぎを撫でながら問う。
マツリにナタで突き刺された足は、もう歩くことが不能だと思っていた。でも、コハク様が私との交わりで目を腕を得たように、私はコハク様から足を貰った。傷跡の代わりに小さな羽毛が生えそろった私の足は、依然となんら変わりなく働いてくれた。
そして、片翼も。
「やっぱり、今までなかった部位が増えているのには慣れないですね……」
パサリと、私の背後で羽ばたきの音がする。
コハク様と結婚して、私は着物の背に穴を空けた。そこからコハク様と揃いの灰色の片翼が生えている。
私の眼を腕を、貴方の足を翼を、不足を補い、視野を共有して、身も心も一つになる。
それが神の花嫁――比翼。
コハク様の指先が、私の髪に絡む。見つめあった目が、細められる。彼の望みが手に取るようで、私は目を閉じてそっと身を屈めた。
ここは雨降る神の庭。
でも、もう雨は降らない。
代わりに天が降るような、明るい光が注いでいた。
完
「もう、怖ろしくはないか……?」
私の膝で目をつむっていたはずのコハク様が目を開けて、私を見上げてくる。
コハク様は、依然とお姿が変わった。潰れていた眼は開眼して、漆黒の瞳が金の瞳と対になって私を見上げてきていた。
「すみません、起こしてしまいましたね」
「良い。気にするな。どうせ法吉が起こしに来る頃だ」
コハク様の手が伸びて、私の頬に触れる。
隻腕ではなく両腕で、翼と癒着しない人の腕だった。
片翼は背中に移り、前に仰向けで寝にくくなったとぼやいていたのが可笑しかった。でも、気持ちは痛いほどわかった。
「コハク様は誤解なさってます。私は、以前の雛鳥のようなお姿も好きでしたよ」
「嬉しいことを言ってくれる」
神との祝言。神との契り。魂ごとの結びつき、交わり、一つとなる。
私の虹彩も今、コハク様と同じ黒と金色をしていた。
「その体には慣れたか?」
コハク様が、私のふくらはぎを撫でながら問う。
マツリにナタで突き刺された足は、もう歩くことが不能だと思っていた。でも、コハク様が私との交わりで目を腕を得たように、私はコハク様から足を貰った。傷跡の代わりに小さな羽毛が生えそろった私の足は、依然となんら変わりなく働いてくれた。
そして、片翼も。
「やっぱり、今までなかった部位が増えているのには慣れないですね……」
パサリと、私の背後で羽ばたきの音がする。
コハク様と結婚して、私は着物の背に穴を空けた。そこからコハク様と揃いの灰色の片翼が生えている。
私の眼を腕を、貴方の足を翼を、不足を補い、視野を共有して、身も心も一つになる。
それが神の花嫁――比翼。
コハク様の指先が、私の髪に絡む。見つめあった目が、細められる。彼の望みが手に取るようで、私は目を閉じてそっと身を屈めた。
ここは雨降る神の庭。
でも、もう雨は降らない。
代わりに天が降るような、明るい光が注いでいた。
完