「というわけで!ごめんねーお客さん。」
私を殺しかけた黒服と一緒に一階へ降りてくると、トーマス何手を合わせて私の世界なら「メンゴ!」って言っているようなノリで謝ってくる。
――ああ、ああ!つい数分前まで刃を突きつけられていたこの身はまさに今「生きた心地がしない」ってやつだ。
部屋に入った瞬間に死亡確定イベントが迷い込んでくるなんてどんな鬼畜世界だよって話だが、マリアにもついさっき殺されかけていたために、なんというか、次の時には慣れてしまいそうだ。
「はぁ……死ぬかと思ったァ……。」
私の中で、驚きと安堵が重なり合い、声が途中で裏返って変になる。
「じゃあここで僕と彼から改めて自己紹介をしようか。」
とトーマスが黒服の背中をポンポンと叩いて言う。
「僕はトーマス、呪術師だ。魔術師と呪術師どちらの術式も研究している。術式について知りたかったら、なんでも聞いてくれ。」
「俺の名はルドルフ、魔術師だ。」
――ま、魔術師!?なんでそんなやつがここに……
私は軽く動揺をしていて、顔に出さないようにするのが難しかった。
それに私はトーマスとルドルフ、どちらも信用などしていない。できるわけもないのだ。私が見渡すと、部屋の端にはシートが敷いかれていて、マリアはその上に寝ているようだ。
「魔術師と聞いて、君は驚いているだろうと、思う。警戒もしているみたいだね。」
トーマスは腕を組み私を観察しながらそう告げる。ルドルフからは手で座って話そうと合図されたので、それに従って座る。
「それは……」
「仕方がない。俺は魔術師である以上、呪術師と仲良くすることなどできないし、許されない。」
私はルドルフの言葉を聞くまで、魔術師はただ憎い存在とだけ思っていた。でも魔術師の中にも、呪術師と仲良くしたいと思う者はいる。
――このおかしな社会がそんな優しい考えを潰しているのだ……と。
「一つ、私からお聞きしたいことがあるのですが……」
私は丸テーブルを囲む会談で軽く挙手をする。
「なんでもどうぞ。」
トーマスはすぐにそう返す。私が聞きたいことはただ一つ。
――聞くならきっと今しかない。呪術師と魔術師の過去を。
「魔術師と呪術師がなぜそんなに憎み合っているのか、私は知らないんです。」
私の言葉に正直トーマスとルドルフは驚くと思っていた。なぜならこのことはおそらくこの世界における常識だからだ。
だが、割と何も思っていないのか私がこの世界の者でないと知っていたのか、平然と私の言葉を聞いている。
「そうか、それが知りたいことだね?」
「はい。」
「ではまず、古い歴史から話をしよう。」
トーマスは、手に持っていたコーヒーを一度に飲み干すと、やがて話を始める。
「これは、この国の古き歴史が作った慣習――」
✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎
この国、ローレン国は古くより、周りの国から侵攻されやすい地域だった。というのもこの国の気候、土地は豊かで、周りの国よりも潤っている。
加えて魔獣と呼ばれる化け物の棲家さえも、近くの地域で多くいた。
魔術師はそれをいつも倒していたが、魔術というものは、全ての人に備わる能力ではないらしい。
“つまり持たざる人”は、常にただの足手纏いだったのだ。
しかしある時、転機が訪れる。
魔獣の侵略により疲弊していたローレン国の魔術師の棲家の近くに再び魔獣が奇襲を仕掛けてきた日、とある「呪術師」と名乗る男がローレン国の魔獣を一掃したのである。
ローレン国には古くより呪術という概念はあったものの、その有用性については知られていなかったという。
「呪術師」には魔術が使えない。代わりに使うのが負の力。呪いを用いた術式だ。呪術師は敵に呪いの種を植え付け、呪力操作で体を蝕み、呪い殺す。
そして呪術には、もう一つ秘密がある。
✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎✴︎✳︎
「それは、生まれたばかりの魔術の使えない子供に呪力を流し込み、呪術を発動させると、その子供は呪術師となる。」
トーマスは話に一区切りをつけると、コーヒーを軽く啜る。
「ふぁー。ん?あんた達、なんの、話をしてるの?」
あくびをしながらマリアが起きてきた。マリアと会ったのはついさっきではあるが、私はなんとなく、先程よりはマリアの気持ちを理解してられる気持ちがした。
だからこそ、トーマスとしていたこの話はきっと、彼女の前で話すべきじゃない。
――もう自分の無知で、彼女の傷つかせるのは御免だ。
マリアは気持ちが落ち着いたらしく、チラリと見ると「あんた、何見てんのよ!」と、調子を取り戻したように見えた。
――どうやら今さっきまでしていた呪術師と魔術師の歴史の話は聞こえていなかったようだ。
トーマスはマリアの前でその話をするのは酷と考えたのか分からないが、彼は急にその話を止める。
「お客さんと少しばかりたわいもないお話しをしていただけさ。」
しかし今の話だけで私はもう大枠は理解できたような気がする。
私の頭で多くのピースがカチッとはまったような感覚を覚えた。得た情報をまとめると……
・ローレン国の周りには敵が多く、昔は魔術師が唯一の対抗しうる戦力だった。
・ある時現れた「謎の呪術師」により、ローレン国は一難を逃れる。
そして、
・生まれたばかりの魔術を使えない人間に呪力を流し込み、呪術師が流した呪力に呪術を刻み込むと、その子供は呪術師になる。
魔術師しか戦力がいなかった時にこの情報を聞いた魔術師は何を思ったか。それはおそらく非魔術師を全て呪術師にするという選択だろう。
そして昔ながらの戦力だった魔術師が呪術師を同等に見るとも考えにくい、か……。そしてこれが「持たざるモノの宿命ってやつか。」
「ところで君、いまさらだけど名前は?」
トーマスは眠そうに目をこすりながら丸テーブルまで歩いてきたマリアに茶を入れながら、考え事をしている途中だった私に問いかける。
――いや、マジでいまさらすぎでしょ!?
「私の名前はハツベ、ハツベ・ミライだ。」
マリアは私をじっと見ると、やがて思い出したように
「てかあんた結局どっちなのよ!」
といって私を睨んでくる。こう言ってはおかしいが、気の強い彼女が再び見られて、私は正直言うとに嬉しかった。
――不思議なものだ。まだ出会ってから大して経っていないのに。
「おい!無視すんなよー!」
マリアは何も言わずにニヤニヤしながら見てくる私にカッとなって、私の腹に見事にクリティカルヒットパンチを浴びせた。「グハァ……?!」
マリアは目が回りながら大の字に気絶する私の胸ぐらを掴むと、そのままトーマスのところへ運ぶ。
「トーマス、お願いするね。」
トーマスはマリアにそう言われると、思い出したように私を見ると、私の頭に手を当てて目を閉じる。彼の当てた手の周りには淡い白い光が集まり、彼の手の中心に向かって集まっていく。
「ふむ。これは……」
マリアは息を呑む。この時気絶していた私には分からなかったが、術式博士の彼が持つそのものが、術式探知能力だった。
普段なら彼は、ほんの少し触れて術式を使うだけで術式を知ることができるのだが、そんな彼ですら私の能力を判定するのに少し苦労していたようだ。
「僕の推理が間違っていないならば、どうやら彼は、見ただけで相手の術式と詳細が分かる能力の持ち主だ。」
「え……?」
マリアはそう言って訝しげに首を曲げた。
私を殺しかけた黒服と一緒に一階へ降りてくると、トーマス何手を合わせて私の世界なら「メンゴ!」って言っているようなノリで謝ってくる。
――ああ、ああ!つい数分前まで刃を突きつけられていたこの身はまさに今「生きた心地がしない」ってやつだ。
部屋に入った瞬間に死亡確定イベントが迷い込んでくるなんてどんな鬼畜世界だよって話だが、マリアにもついさっき殺されかけていたために、なんというか、次の時には慣れてしまいそうだ。
「はぁ……死ぬかと思ったァ……。」
私の中で、驚きと安堵が重なり合い、声が途中で裏返って変になる。
「じゃあここで僕と彼から改めて自己紹介をしようか。」
とトーマスが黒服の背中をポンポンと叩いて言う。
「僕はトーマス、呪術師だ。魔術師と呪術師どちらの術式も研究している。術式について知りたかったら、なんでも聞いてくれ。」
「俺の名はルドルフ、魔術師だ。」
――ま、魔術師!?なんでそんなやつがここに……
私は軽く動揺をしていて、顔に出さないようにするのが難しかった。
それに私はトーマスとルドルフ、どちらも信用などしていない。できるわけもないのだ。私が見渡すと、部屋の端にはシートが敷いかれていて、マリアはその上に寝ているようだ。
「魔術師と聞いて、君は驚いているだろうと、思う。警戒もしているみたいだね。」
トーマスは腕を組み私を観察しながらそう告げる。ルドルフからは手で座って話そうと合図されたので、それに従って座る。
「それは……」
「仕方がない。俺は魔術師である以上、呪術師と仲良くすることなどできないし、許されない。」
私はルドルフの言葉を聞くまで、魔術師はただ憎い存在とだけ思っていた。でも魔術師の中にも、呪術師と仲良くしたいと思う者はいる。
――このおかしな社会がそんな優しい考えを潰しているのだ……と。
「一つ、私からお聞きしたいことがあるのですが……」
私は丸テーブルを囲む会談で軽く挙手をする。
「なんでもどうぞ。」
トーマスはすぐにそう返す。私が聞きたいことはただ一つ。
――聞くならきっと今しかない。呪術師と魔術師の過去を。
「魔術師と呪術師がなぜそんなに憎み合っているのか、私は知らないんです。」
私の言葉に正直トーマスとルドルフは驚くと思っていた。なぜならこのことはおそらくこの世界における常識だからだ。
だが、割と何も思っていないのか私がこの世界の者でないと知っていたのか、平然と私の言葉を聞いている。
「そうか、それが知りたいことだね?」
「はい。」
「ではまず、古い歴史から話をしよう。」
トーマスは、手に持っていたコーヒーを一度に飲み干すと、やがて話を始める。
「これは、この国の古き歴史が作った慣習――」
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この国、ローレン国は古くより、周りの国から侵攻されやすい地域だった。というのもこの国の気候、土地は豊かで、周りの国よりも潤っている。
加えて魔獣と呼ばれる化け物の棲家さえも、近くの地域で多くいた。
魔術師はそれをいつも倒していたが、魔術というものは、全ての人に備わる能力ではないらしい。
“つまり持たざる人”は、常にただの足手纏いだったのだ。
しかしある時、転機が訪れる。
魔獣の侵略により疲弊していたローレン国の魔術師の棲家の近くに再び魔獣が奇襲を仕掛けてきた日、とある「呪術師」と名乗る男がローレン国の魔獣を一掃したのである。
ローレン国には古くより呪術という概念はあったものの、その有用性については知られていなかったという。
「呪術師」には魔術が使えない。代わりに使うのが負の力。呪いを用いた術式だ。呪術師は敵に呪いの種を植え付け、呪力操作で体を蝕み、呪い殺す。
そして呪術には、もう一つ秘密がある。
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「それは、生まれたばかりの魔術の使えない子供に呪力を流し込み、呪術を発動させると、その子供は呪術師となる。」
トーマスは話に一区切りをつけると、コーヒーを軽く啜る。
「ふぁー。ん?あんた達、なんの、話をしてるの?」
あくびをしながらマリアが起きてきた。マリアと会ったのはついさっきではあるが、私はなんとなく、先程よりはマリアの気持ちを理解してられる気持ちがした。
だからこそ、トーマスとしていたこの話はきっと、彼女の前で話すべきじゃない。
――もう自分の無知で、彼女の傷つかせるのは御免だ。
マリアは気持ちが落ち着いたらしく、チラリと見ると「あんた、何見てんのよ!」と、調子を取り戻したように見えた。
――どうやら今さっきまでしていた呪術師と魔術師の歴史の話は聞こえていなかったようだ。
トーマスはマリアの前でその話をするのは酷と考えたのか分からないが、彼は急にその話を止める。
「お客さんと少しばかりたわいもないお話しをしていただけさ。」
しかし今の話だけで私はもう大枠は理解できたような気がする。
私の頭で多くのピースがカチッとはまったような感覚を覚えた。得た情報をまとめると……
・ローレン国の周りには敵が多く、昔は魔術師が唯一の対抗しうる戦力だった。
・ある時現れた「謎の呪術師」により、ローレン国は一難を逃れる。
そして、
・生まれたばかりの魔術を使えない人間に呪力を流し込み、呪術師が流した呪力に呪術を刻み込むと、その子供は呪術師になる。
魔術師しか戦力がいなかった時にこの情報を聞いた魔術師は何を思ったか。それはおそらく非魔術師を全て呪術師にするという選択だろう。
そして昔ながらの戦力だった魔術師が呪術師を同等に見るとも考えにくい、か……。そしてこれが「持たざるモノの宿命ってやつか。」
「ところで君、いまさらだけど名前は?」
トーマスは眠そうに目をこすりながら丸テーブルまで歩いてきたマリアに茶を入れながら、考え事をしている途中だった私に問いかける。
――いや、マジでいまさらすぎでしょ!?
「私の名前はハツベ、ハツベ・ミライだ。」
マリアは私をじっと見ると、やがて思い出したように
「てかあんた結局どっちなのよ!」
といって私を睨んでくる。こう言ってはおかしいが、気の強い彼女が再び見られて、私は正直言うとに嬉しかった。
――不思議なものだ。まだ出会ってから大して経っていないのに。
「おい!無視すんなよー!」
マリアは何も言わずにニヤニヤしながら見てくる私にカッとなって、私の腹に見事にクリティカルヒットパンチを浴びせた。「グハァ……?!」
マリアは目が回りながら大の字に気絶する私の胸ぐらを掴むと、そのままトーマスのところへ運ぶ。
「トーマス、お願いするね。」
トーマスはマリアにそう言われると、思い出したように私を見ると、私の頭に手を当てて目を閉じる。彼の当てた手の周りには淡い白い光が集まり、彼の手の中心に向かって集まっていく。
「ふむ。これは……」
マリアは息を呑む。この時気絶していた私には分からなかったが、術式博士の彼が持つそのものが、術式探知能力だった。
普段なら彼は、ほんの少し触れて術式を使うだけで術式を知ることができるのだが、そんな彼ですら私の能力を判定するのに少し苦労していたようだ。
「僕の推理が間違っていないならば、どうやら彼は、見ただけで相手の術式と詳細が分かる能力の持ち主だ。」
「え……?」
マリアはそう言って訝しげに首を曲げた。