「こうして壁に掲示されているのは、無指名の依頼です。依頼の内容と、引き受けるにあたって組合側が推奨している階級、成功報酬などが書かれています」
冒険者組合が扱う仕事の大半は、こういった、相応の実力がある冒険者であれば誰が請けても構わない無指名の依頼だそうだ。ただ、稀に、この人にお願いしたいと指名付きで依頼が来ることもあるという。
「先ほどのお話からして……フェイさんは基本的に、お一人で依頼をこなすご予定ですよね?」
「はい」
「では、基本的に単独で引き受けられる依頼は、ご自身の階級と同じ難易度のものまでとお考えください。……一つ上のものまでは請けられるのですが、同行者が必要なんです」
「なるほど、わかりました」
その場合、フェイはずっと四級のままになるだろう。
だが、二級以上は超人という話だったので、四級でもかなり幅広い依頼を請けられるはずだ。今のところ、特に問題はない。
「何か気になる依頼はありますか?」
フェイは早速、壁に貼られている依頼書に目を走らせた。
ノーリャの葉は淡い黄緑色なので、インクの色を邪魔せず文字が読みやすい。とりあえず依頼の件名だけをざっと確認してみるが……。
(魔獣の討伐依頼が多いな)
あまり気になるものはなく、フェイは少しだけ肩を落とした。アイナはその様子に気づいたらしい。
「魔法使いの方におすすめの手頃な魔獣でしたら――」
案内してもらえるのはありがたいことなのだが、求めている方向性とは全く違うので、フェイは慌てて首を横に振った。
「いえ、そういうのには興味ないです」
「えっ?」
咄嗟のことだったので、あまりにも直球な言葉が出てしまった。彼女が気を悪くしていないかそっと窺うが、ただ困惑しているだけのようで、フェイは内心胸を撫で下ろす。
「あの……植物に関する依頼はどこですか?」
今度は慎重に、言葉を選びながら尋ねてみると、アイナはもっと困惑した表情になった。
「え……ええと、植物、ですか? あちらですが……」
窓口付近から、建物の奥の方へ向かってアイナはどんどん歩いていく。
冒険者たちが数人集まっている一角を通り過ぎつつ、「植物関係の依頼は、こういった魔獣討伐に比べるとどうしても報酬は安くなりますよ」と念を押された。
路銀をほどほどに稼げればいいので、フェイとしては問題ない。
「このあたりです。採集系の依頼が多くて……駆け出しの冒険者さんが請けるお仕事が中心です。フェイさんのような魔法使いの方には物足りないかと……」
「いえ、問題ありません。私は基本的に、植物関係の依頼しかしないつもりでここに来たので」
アイナはいよいよ理解不能になったようで、パチパチと瞬きを繰り返したあと、「なんで……?」と首をかしげたまま固まってしまった。
「なんで、って……私、本業は植物医なので」
「植物、い……?」
「植物専門の医者みたいなものです。なので、木の調子が悪いとか、よくわからない症状が出ているとか……そういう依頼もあれば引き受けます」
「はぁ……、なるほど……」
困惑はしつつも、植物医がなんなのかはおおよそ理解してもらえたらしい。それなりに上手く説明できた気がして、ちょっぴり満足していた時だった。
「おいおい嬢ちゃん、それなら、来るとこを間違えてるぜ」
低く太い声が響く。声をかけてきたのは、魔獣討伐の依頼を見ていた冒険者のうちの一人だった。
戦士、あるいは剣士だろうか。大剣を背中に担いでいて、背は見上げるくらいに高い。筋肉ではち切れそうな上腕は、フェイの太腿くらいの太さがある。
ここまで筋骨隆々な人は、これまでの人生で見たことがない。
(流石は王都の冒険者組合。すごい人がいるなぁ)
フェイが呑気に考えていると、彼はフッと小さく笑った。
「草いじりがしたいなら、冒険者じゃなくて庭師協会にでも入りな」
「え……?」
フェイは目を瞬いた。
「あるんですか? 庭師協会。それなら行きますけど……」
冒険者のような形態で仕事を請けられるなら、庭師協会こそ最適な登録先である。少しばかりフェイが前のめりになると、彼は逆に、「へっ?」と困惑した様子で半歩下がった。
さらに、「もう、グランツさん!」と、アイナが間に割って入る。
「なんだよ、アイナ」
「せっかく新規登録してくださった魔法使いさんにちょっかいを出さないでください」
グランツと呼ばれた冒険者は、「ハァ……これくらい挨拶だろうが」と面倒そうにため息をつく。しかし、アイナは一歩も引かなかった。
「グ・ラ・ン・ツ・さ・ん?」
「あー……へいへい、わかったよ」
彼は肩をすくめると、依頼書を一枚ピッと破り取って去っていった。
「すみません、フェイさん……。彼、悪い人ではないんです。面倒見がよくて素晴らしい実力の持ち主なんですけど、新入りの方をああしてからかうこともあって……。お気を悪くされたら本当に申し訳ないです」
「いえ。それより、庭師協会って――」
どこに行けば入れるのか気になり尋ねようとするが、その前に、アイナが悲しい事実を教えてくれた。
「ありません。彼の冗談です」
「ないんですか……」
フェイはしょんぼりとして肩を落とした。



