植物医フェイの診察録~捨てられた『精霊眼』の少女は、草木の謎を解き明かす~


 渡り廊下で繋がっている別棟に向かいながら、アイナは階級査定について説明してくれた。

 冒険者組合では、一定の基準に沿って、組合員を一から十までに階級付けしているそうだ。
 登録の際は、聞き取り調査や簡単な実技試験の結果によって階級が決められる。
 ただしあくまで簡易的な査定のため、一つ下の階級での登録となり、その後の実績によって階級が上がっていくらしい。

「二級以上は、一人で超大型の魔獣を倒せるような……言ってしまえば超人です。当然、そんな実力を建物の中で見せていただくわけにはいかないので、登録時は三級査定で四級登録が最高位ですね。初心者の方は九から十級での登録になることが多いですが、フェイさんの場合は六……いえ、五級以上になりそうですね。火魔牛の群れに難なく対処できるくらいですし」

 別棟に到着すると、使える魔法の種類や威力、回数などについて細々と質問を受けた。

 フェイは日常生活や狩りなどで魔法を使っているだけなので、広範囲に影響を与える特大の攻撃魔法がどれくらいできるのか、自分でもよくわからない。とりあえず、明確にわかる範囲で答えていく。

 続いて、魔法使いの階級査定に携わっているという職員が二人が立ち会いで加わり、実技試験が始まった。

 フェイが使う魔法は特殊なので、そのあたりに突っ込まれると面倒臭い。フェイは彼らに背を向けて口元を見られないようにし、様々な攻撃魔法を的へと飛ばす。
 最後に防御魔法も試されて、査定は終了となった。

 窓口に戻ったところで、結果が言い渡される。

「お疲れ様でした。フェイさんは攻守ともに多彩な魔法が扱えますし、発動速度も強度も十分なので、登録査定で最高の三級相当ですね! 登録時は一つ下の階級になるので、四級魔法使いとして組合員証を発行します」

 こうやって客観的に力量を分析されるのは初めての経験だったので、なんだか新鮮だ。

(師匠には『一人前』って認められたけど、ここでも同じように判断されてよかった)

 魔法()、キーランに教えてもらった大事な知識であり力だ。評価が得られるのは素直に嬉しい。
 フェイが内心で喜んでいると、アイナは少し言いづらそうに次の話題を切り出した。

「最後に、登録料ですが……組合員証の発行もあるので、大銀貨一枚をいただいています」

 組合員証は、他国でも身分証として使えるものだ。大銀貨一枚は決して安くはないが、便利さを考えるとお得なくらいだろう。

(……レオーネさんが多めに持たせてくれた分を、ここで使わせてもらおう)

 頷いたフェイは、財布から大銀貨を一枚を取り出し、彼女に渡した。

「ありがとうございます。早速組合員証を制作しますね。できるまでの間に、お仕事の請け方についてご案内します」

 アイナが向かったのは、窓口横の壁際だ。そこには、たくさんの黄緑色の葉が画鋲で留められていた。

「……組合の前にあるノーリャの葉ですか?」
「よくわかりましたね!」

 近づいて見てみると、葉っぱには依頼内容や報酬、推定される難易度などが細かく書かれている。

「依頼書として使っているんですね」
「そうなんです。依頼書は一定期間保管したあと破棄するので、紙を使うのはもったいなくて」

 羊皮紙は高級品だ。植物の繊維を()いて作る紙も、羊皮紙ほどではないがそれなりに高い。半ば使い捨ての依頼書に使うのは、確かに躊躇われる。

「ノーリャの葉ならタダでたくさん取れますし、何より筆記に向いているので、うちでは紙の代わりに重宝しているんですよ。……それに、爽やかないい匂いが仄かにして、色も綺麗でいいですよね」

 アイナは柔らかく目を細めて、たくさんの依頼書が留められている壁を見つめる。

 あのノーリャは、依頼書になる葉を通して、職員や冒険者たちに広く親しまれているのだろう。枝の上に寝転んで組合を眺めていた精霊の姿を思い出し、フェイも少し目元を緩めた。