細長い三階建て以上の建物が多くひしめき合っている王都において、冒険者組合はやや異色の建物だった。
ゆったりと広い土地に二棟が建っており、周囲には花や木が植えられているほか、大小いくつかの彫像まで置かれている。
土地相応に建物も広いため、縦に伸ばしてまで床面積を確保する必要がなかったのだろう。門の先にある大きな棟は二階までしかなく、三階建ての部分は別棟部分のみだ。
尖った屋根を含めても高さは抑えられている方のため、黒っぽい煉瓦造りで重厚感はあれど圧迫感はない。
フェイは建物を観察しながら、まっすぐに本棟らしきところへと入っていった。
(ここが、冒険者組合……かなり広いな)
入ってすぐに、フェイは驚きで目を瞠った。
どっしりと太い柱が支える高い天井と、広がる大空間。中にはざっと三十人くらいの人がいて、騒がしくはないが賑わいがある。
(……ここからどうすればいいんだろう。右は窓口っぽいけど……あそこに行けばいいのかな)
森の家から近い小さな村には、冒険者組合の支部などなかったので、どこで何をすればいいのかさっぱりわからない。
立ち尽くしたフェイが視線を彷徨わせていると、空いていた窓口の女性と目が合う。フェイはさっと目を逸らしてしまったが、彼女は困っている様子を察したのかすぐに立ち上がり、こちらへやって来た。
「こんにちは。はじめましての方……ですよね。ご依頼のご相談ですか? それとも、冒険者志望でしょうか」
声をかけられて、フェイは改めて彼女へと視線を向ける。
フェイより頭一つ分くらい背が高く、柔らかな栗色の髪を緩く一つにまとめている。穏やかで理知的な雰囲気の人だ。
迷いのない声掛けからして、組合に出入りする人の顔をほぼ覚えているのだろう。かなりの人数が出入りするだろうに、すごい記憶力だ。
フェイは内心驚きながら、「冒険者登録をしようかと」と応じた。
「では、奥の窓口へどうぞ」
全部で五つある窓口のうち二つには椅子が用意されている。冒険者登録や、依頼受付など、対応にある程度時間がかかる場合に使用するのだろう。
フェイを席に案内したあと、職員の女性はいくつかの資料を手に戻ってきて、向かいに腰掛けた。
「ノルドルン冒険者組合へようこそ。組合職員の私、アイナが担当させていただきます。お名前はなんとお呼びすればよいですか?」
「フェイ、と」
「フェイさんですね。どうぞよろしくお願いします。フェイさんは、これまでに冒険者として活動したことはありますか?」
「いえ、ありません」
「組合に入ろうと考えたきっかけや理由を教えていただけますか?」
ここまできて、すぐさま簡単に登録できるわけではないらしいとフェイはようやく悟る。
冒険者の中には腕っぷし自慢の荒くれ者も少なくないと聞くので、来る者拒まずなのかと思い込んでいた。
しかし考えてみれば、ある程度の身辺調査や面接があるのは当然だ。
依頼を引き受けた冒険者は単独、あるいは数名で現地へ赴く。そこで何か問題を起こされては、組合そのものへの信頼が揺らぎかねない。信頼を失えば依頼が集まらなくなり、運営が立ち行かなくなる。
きちんと依頼をこなせる実力があるか、素行に問題がなさそうかを見極めるのは、かなり重要だ。
登録を断られてしまわないように、フェイは少し緊張しつつ、慎重に答えた。
「旅の途中なので……まずは国内、ゆくゆくは国外に出ることも考えると、冒険者が最適だと思って」
「でしたら、確かにぴったりですね。冒険者組合は各国にあって、友好国以外とも独自で連携しています」
アイナは、ノルドルン王国周辺のかなり広範囲が描かれている大陸地図を広げて見せてくれた。周辺一帯の大半には赤い印、その他多くの国に青い印が付けられている。
「赤が友好国、青は冒険者組合同士での連携がある国です。組合員証を提示すれば、そちらでも相応の階級が与えられますよ」
国によって冒険者の数も強さも異なるので、どこでも全く同じ階級というわけにはいかないが、妥当な階級で登録してもらえるそうだ。
「フェイさんは、字の読み書きはできますか?」
「はい」
頷くと、一枚の紙が差し出された。情報を書き込む用紙のようだ。
「では、こちらにお名前と年齢を書いてください」
ペンとインクを渡されたので、早速、『フェイ』『18歳』と書き込む。
「家名の登録はなしでよろしいですか?」
「はい」
庶民には家名がない人も多い。形式的な質問だったようで、さらっと次の記入欄へと進んだ。



