ノルドルン王国の中でもかなりの田舎に分類される村と村の間には、駅馬車など走っていない。最初はひたすら歩いての移動だ。
どれだけの長旅になるかもまだわからない。路銀を節約するために、なるべく歩こうと考えていたのだが――……。
(あ、駄目だ、これ)
森の家を旅立ってから四日目にして、フェイはちょっとした絶望とともに、宿のベッドに倒れ込んだ。
フェイは普段から森の中でいろんな植物を採集しているし、一、二週間に一回は片道約一時間の村と家を往復している。なので徒歩移動も苦にならないだろうと考えていたのだが、連日朝から晩までひたすら、長距離を歩き続けるというのはまた別物だった。
秋の初めで暑さが和らいでいることもあり、二日目まではほぼ予定通りに進めたものの、三日目にはくたくたで足がすっかり重くなり……。
四日目の朝、立ち上がった瞬間に『今日は隣町まで歩くのは無理だ』と悟った。
小刻みに震えるふくらはぎ、数歩歩く度にカクンと力が抜ける膝。
靴と擦れてあちこち痛む足は、もう一歩たりとも歩きたくないと訴えている。無理に歩いたところで、道端で倒れるように野宿する羽目になるだろう。
フェイは大人しく、持参した傷薬を塗って、一日しっかりと身体を休めることにした。
丸一日の休息日を挟んだことで、翌日には随分身体が楽になっていた。
五、六日目は、これまでよりのんびりと、休憩も多く取りながら進んだ。このあたりでようやく、自分にとって無理のない移動距離と速度を掴めてきたように思う。
七日目にはある程度大きな町についたので、そこから先は主に駅馬車での移動となった。
峠道などは歩くしかないが、駅馬車八割、徒歩二割くらいの旅なので、疲労感はずっとましだ。ただ、長時間馬車に乗っているので、降りたあとも揺れているような感覚がなかなか抜けないし、座りっぱなしでお尻と腰が痛くなるという初めての経験をした。
旅を始めてから十一日目の朝、フェイはようやく王都に入ることができた。
「終点だよ」
馬車の扉が開かれ、他の乗客に続いてフェイも降りる。
(建物も人も多いな)
ここは王都の外れで、中心部まではまだまだある。それでも二、三階建ての建物が並んでいるし、道行く人の数も多い。細い路地は土のままだが、大通りは石畳で綺麗に舗装されていた。
住み慣れた森や、近くの村とはまるで様相が違う。
フェイはさらに、乗合馬車で王都の中心部へと向かった。
目指すは、冒険者組合だ。
どうやってキーランを探せばいいか。旅をしながら、あれこれと考えて最終的にたどり着いた答えが、冒険者になることだった。
三ヶ月以上前に出発し、どこへ向かったかもわからない彼を見つけるのは簡単ではない。フェイ自身も長期間、長距離を旅する必要があるだろう。その間、宿や食事、移動など、何をするにもお金がかかる。それに、闇雲に動き回ったところで見つかるわけがないので、情報収集も欠かせない。
そのすべてを叶えられそうなのが冒険者だ。
王都の冒険者組合には、王国内の各地から様々な依頼が届くという。あちこちで依頼をこなしつつ、キーランらしきエルフが立ち寄っていないか聞き込みをすれば、お金と情報の両方を手に入れることが可能だ。
フェイは王都になんの伝手もないし、伝手を頼りに働いた場合は簡単に辞めることができない。しかし冒険者ならば、仕事をするもしないも自分次第で、辞め時も自分で選べる。それに、人と必要以上に関わらなくて済むのもいい。
キーランの行き先次第ではノルドルン王国から出る可能性もあるフェイにとって、これ以上ない選択肢に思えた。



