植物医フェイの診察録~捨てられた『精霊眼』の少女は、草木の謎を解き明かす~


 昨日歩いたばかりの山道を再び下り、フェイは村へと向かった。

 店に行くには早すぎる時間だと途中で気づいたもののとりあえず行ってみると、開店前ではあるが、中でレオーネが調薬をしているのが見えた。

 コンコン、と店の扉を軽く叩き、「おはようございます、フェイです」と声をかける。すぐに扉が開き、ちょっぴり驚いた顔のレオーネが出迎えてくれた。

「二日続けてとは珍しい。どうしたんだ?」
「朝早くにすみません。しばらく留守にするので、薬草を多めに持ってきました」

 籠いっぱいの薬草を見て、レオーネは「おお」と驚きの声を上げる。

「入ってくれ。精算をしよう」

 店内に入ると、いつものように、束にしてある薬草をどんどん渡していく。昨日、入手が難しいと聞いたものを特に多めに持ってきたので、レオーネは嬉しそうだ。
 重さと種類を丁寧に記帳しながら、彼はちらりと視線を上げて問う。

「長旅かい?」
「そうなるかもしれません」
「……そうか」

 算盤を弾き終えたレオーネは、大銀貨を二枚差し出した。買取額が上がっているものがあるとはいえ、持ってきた分の倍くらいの金額だ。

 彼が簡単な計算を間違うはずもない。どういうことなのかわからず、フェイは大銀貨とレオーネを交互に見つめた。

「少しだが、路銀の足しにしてくれ」
「でも……」

 うろたえるフェイの手を取り、レオーネは「いいから」とお金を握らせる。

「旅の安全を願っているよ。戻ったら教えてくれ」
「……はい。ありがとう、ございます」
「気をつけてな。なるべく大きな街道沿いを行くんだ。珍しい薬草があるからって、山の中にふらふら入るんじゃないぞ」

 心配のお小言は、なんだかキーランのようだ。
 少しだけ笑ったフェイは、「はい」としっかり頷いてから店を出た。



(さて……まずはどこに行こう)

 この旅の目的は、キーランを探すことだ。

 どうして急に旅に出たのか。
 それも、行き先どころか立ち寄った場所すらも隠すようにして。

 どうにも気になって仕方がないので、フェイは彼の足取りを追うことにした。

 ただの気まぐれで、たまにはのんびり一人旅をしたくなっただけなら別にいい。追いついたらちょっと話をして、そこからはそれぞれ旅をするなり、家に戻るなりするつもりだ。
 せっかくなので、旅先でいろんな植物も見ておきたい。

「とりあえず、王都を目指すか」

 フェイは、家から持参した、少し古い地図を広げた。

 今のところ、キーランが立ち寄った可能性が高いとわかっているのは王都だけだ。仮に立ち寄っていないとしても、王都には人も物も情報も集まるので、何かしらの手がかりくらいは得られるかもしれない。

 ここはノルドルン王国という国で、フェイとキーランが暮らしていたのは、隣国にほど近い南東の森の中だ。

 王都は海に面した東海岸側にあり、村からは北東に位置している。無駄遣いはできないが、かなり距離があるので馬車も使って移動した方がいいだろう。

 最初の目的地を二つ隣の村に決めて、フェイは早速歩き始めた。