植物医フェイの診察録~捨てられた『精霊眼』の少女は、草木の謎を解き明かす~

「それでは、受託の手続きを始めますね」

 そう言ったアイナは、組合員証を魔道具に当てたり、羊皮紙に何やら書き込んだりと、てきぱき作業を始める。

「依頼完了までにかかる日数は、何日くらいで申請しますか?」
「……採取場所までの往復日数分で十分だと思います」
「その場合……馬車で一時間くらいなので今日中になってしまいますが、少し余裕を持たせることをおすすめします」

 どうしてだろうと思いフェイが少し首をかしげると、すかさずアイナが補足してくれた。

 難易度にもよるが、申請した日数よりも遅くなると、不測の事態が発生した可能性ありとして、組合職員や冒険者たちが安否確認や現地調査に行くことになるらしい。
 遅れが生じただけで問題なく依頼をこなせていたとしても、確認・調査にかかった人件費を差し引かれての報酬支払いになるそうだ。

「なるほど……それなら、念のため三日でお願いします」
「はい、かしこまりました。では、こちらに受託の証として、親指か人差し指で(しるし)をつけてください」

 差し出されたのは、青みがかった銀色に鈍く光る、不思議なインクだ。

(魔導具の類だってことはわかるけど、組合員証と同じで材質も込められている魔法もすぐにはわからないな)

 フェイはインクに人差し指でそっと触れた。液体でなく、ぷにっとした不思議な感触だ。

「このあたりに押してください」

 アイナに示されたあたりに、指を押し付ける。羊皮紙についたインクからは青みが消えており、少し輝きを増した銀色になっていた。

 続いて、アイナも同じように印をつける。彼女がつけた印は落ち着きのある紺色になった。

(……どういう理屈だろう。人によって、固有の色になるんだろうなってことはわかるけど)

 興味をそそられるけれど、これから森に向かうので、ここであまり時間を使っていられない。解明はまた今度だ。

「これで手続きは完了です。最後に……今回の必要道具をお渡しします。まずは、採集用の木箱。それから、現地までの地図と、森の中の簡単な図です」

 木箱は底面がフェイの両手のひらを並べたくらいで、高さは林檎一つ分といったところだろうか。小脇に抱えられる大きさなので、採集の邪魔にはならなそうだ。

「ありがとうございます。では、また」
「お気をつけて。無事のお帰りを!」