いつまでも過去を振り替えていても仕方がない。僕らの現実は警備員さんに見つからないように昇降口へと辿り着く必要がある。

最近流行っているホラーゲームのようだと思ったけれど、冷静に考えると殺されない代わりに死に戻りなんてできやしない。

一発勝負の現実世界はゲームなんかよりも遥かに過酷だ。

「案内なら私に任せて」

「ずいぶん頼もしいね」

「だって、私の能力が瞬君の役に立つって考えると嬉しくて。人に頼られることがこんなに嬉しいことなんて知らなかった」

他の人から姿が見えない小夜が僕の先を進み、誰かの気配を感じたら後に続く僕に教えてくれればそれで良い。

やることは単純だけれど、小夜にしかできない重要な役割だ。

一階までは何事もなく辿り着くことができたけれど、ここから先はもう少し警戒心を高める必要がある。

昇降口のガラス戸には、懐中電灯の光の玉が閃光のように走っている。

「警備員さんの数が増えてない?」

「そりゃあ、校舎の中には僕達不審者がいるから、仲間を連れてきたんだろうね。中庭側の通路から出よう」

小夜が物体に触れられなくなってしまった以上、内側から鍵をかけることはできない。僕らがここから逃げ出したという証拠はそのまま残るだろう。

そして僕らが侵入したせいで、この学校は防犯対策を見直さなければいけなくなるだろう。申し訳ないけれど、僕らは盗みや悪戯(いたずら)をしたわけじゃないから、防犯意識を再考する良い機会だと受け止めてほしい。

フェンスを越え終えるまでは生きた心地がしなかったけれど、僕らは無事に外に出ることができた。

校舎が見えなくなる距離までしばらく走り続けて、ようやく後ろを振り返ると、張り詰めていた緊張感が一気に緩まり、疲労が一気に押し寄せてきた。

「思ったより簡単に出られたね」

どうやら小夜の方は罪悪感も疲労も感じていなさそうだ。

僕は息を整えるために、胸を押さえて大きく深呼吸をした。

「ごめんね。大分無理させちゃったかも」

「ううん。行って良かったよ。夜の学校なんてなかなか体験できないし、小夜のお陰で分かったこともあったし。でも、学校に侵入するのは、もうこれっきりにしよう」

公園まで帰って来ると、空の色はわずかに明るくなりかけていた。長居(ながい)をし過ぎてしまったから、急いで家に帰らなければいけない。

「明るくなると見えなくなっちゃうから、早く戻らないと」

「僕も親に見つかる前に急いで帰らないと。それじゃ、また」

「うん、またね」

小夜は真夜中の冒険に満足したのか、昨日と同じように、線路を渡って自分の世界に帰っていった。