もちろん暖と行きたくないとかそういうことではない。ただ私が暖を誘う勇気がないだけだ。

急に私なんかに誘われたらびっくりさせてしまうかもしれない。
それに暖は優しいからきっと嫌でも、断れずにきてしまうだろう。

「暖が私と行きたくなかったらどうするの?」

ため息混じりに私が言うと「はぁ」となぜかため息で返された。

そんな怪訝な顔で私を見なくたっていいのに。

「あのねぇ暖くんが冷と行きたくない訳ないでしょ!見てればわかるよ、私の目は誤魔化せないんだから」

ふんっとほっぺを膨らませながら返される。

「でも…」と言ってうじうじしている私に対して
「誘わないならもう冷とは話さないからね」なんて冗談に聞こえないようなブラックジョークを言う。

結局そのあと、チカに押しに押されてしまい「わかったよ…」と項垂れる私がいるのであった。

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その日は八時近くまでチカと話したり、お店に行ったりと存分に楽しんだ。

こんなに遅くまで外にいるのは久しぶりだ。
夜遅い時間に外を出歩くのも悪くないなと思う。

「あ、そういえばチケット…」

押しに負けて結局誘うと言ってしまったけれど本当に私にできるのだろうか。
多少の心配をもちながら帰り道を歩いていた。

「ただいまー」
家に着くとお父さんがいた。

「おかえり」と返していつもよりもニコニコしているお父さんはなんだか上機嫌のように見える。

「何かいいことでもあったの?」
「ん?あぁ、冷から久しぶりに友達と遊ぶなんて言葉聞いたもんだから…嬉しくてな。」

お父さんは安堵したような、優しい笑顔を私に向けた。

「…確かに久しぶりかも。楽しかったよ」