佳奈は、昔に小学校の頃いじめられたことがあったようだった。

聞いた話は私まで苦しくなるような酷いものだった。

人の命の重みや、苦しみがまだ分からない小学生ながらの悪意。

佳奈に対してのいじめはよく音楽室で行われていたそうだった。ある日、その行為がヒートアップしたのか佳奈は倒れたピアノの下敷きになったそうだった。

幸い、痕に残るような傷はできなかったそうだった。
けれど何ヶ月間かは、足の骨を折って歩くことも難しかった、と。

あの日、周りは佳奈を助けようとはしなかった。
周りの笑い声が頭に響いて、「…たすけて」という
佳奈の声は誰にも届かなかった。

そのトラウマのせいで音楽室についた佳奈はさっきのようになってしまったみたいだ。
佳奈はごめん、取り乱してといつもの様子を取り戻しつつあった。

今言わなければいけないと思った。
いじめられたことがある佳奈だからこそ。

きっと私の気持ちも冷の気持ちも分かってるはずだと、そう思った私は意を決して口を開いた。

「あのさ、もう冷にああいうことするのやめない?
佳奈もいじめられたことあるなら分か…」

「は?何言ってるのチカ」
私の言葉は佳奈の言葉によってとめられた。

「…っ私は、ずっと上にいなきゃいけないの!!
クラスメイトから馬鹿にされないように、下に見られないようにいないといけないの!!!」

佳奈は恐ろしい剣幕をしていた。

「チカだって思うでしょ?冷はひどい奴だって、だから私たちのところにきたんでしょ?

冷みたいな奴がいるから私やチカみたいに苦しむ人がでるの!!」

そう言う佳奈の目はどこか遠くを見ていた。
それは、私でもない、きっと冷でもない。

昔自分をいじめ、苦しめてきた人たちだ。
憎悪、嫌悪、悲しみ、痛み…何もかもを詰め込んだようなそんな顔を、佳奈はしていた。