冷は私に何も言わず、その場から逃げていった。
私は1人立ち尽くしていた。

冷のあの顔が忘れられなかった。汚いものでも見るかのような、怯えたようなあの表情。

あぁ、もう私は戻れないところまできてしまったんだな。

その日から私は冷と話さなくなった。
佳奈たちと話すようになってからは、冷に対する言動が日に日にヒートアップするようになっていった。

「男好き」「きもい」「最低」

そんな言葉を聞くたびに苦しくなった。
私がこうさせてしまったんだと自分を責めるようになった。

私があの時、弱くなければきっとこんな事にはなっていないから。

そんな日々が、中学が終わる春頃まで続いていた。

私はもう耐えられそうになかった。
冷に辛い思いをさせたり、ひどいことを言っている
自分がどんどん醜くなっていくのを。

高校ではもうこんな事はやめよう、と佳奈たちに言おうと決意したその日だった。
教室を見渡すと、佳奈がいなかった。

他の子に「佳奈ってどこにいるか分かる?」と聞いてみるも皆分からない、と言うばかりだ。

私は校舎の中を探し回っていた。

「…っう、ゃめて、ごめ…なさ」
そんな時、音楽室からひそかに泣き声が聞こえた気がした。

私は音楽室を、中の人に気付かれないようにそっとあけた。
そこには佳奈がいた。

けれどそこには佳奈以外には誰もいなくて、佳奈がなぜか誰かがいるかのように怯えていた。

「かなっ…!!」
何度呼んでも反応しない佳奈に大声をだして呼びかける。

「…チ、カ?」
泣いていたのが分かる。
一体こんなとこでどうしたんだ、と聞いてみると佳奈がゆっくりと話し出した。

これは、初めて聞いた佳奈の本音だった。