今日は先生の手伝いをしていたのもあっていつもより帰りが遅くなってしまった。

帰り道を歩いていた時、ふと上を見る。

「わぁー綺麗…」
つい口にだしてしまった自分にびっくりする。

夕暮れ時のふじ色とピンク色を混ぜたような空模様、そして桜が散っているのも相まってとても幻想的な光景だった。

足元には大きな水たまりがある。昨日雨が降っていたからそれでできたのだろう。
そこには大きな桜の木と空が反射している。

だけど、その美しい光景を見ていると、心の奥にしまっていた感情が押し寄せてきた。
ずいぶん前にも、チカと一緒にこんな景色を眺めたことがあった。彼女の笑顔、冗談、そして今は遠く離れてしまったその存在が、胸を締め付けた。

『綺麗だね』
『うん。この景色またチカと見たいな』
『ふふ､何か冷らしくないじゃん？』
『…別に、何となく言ってみただけだよ』

チカとの懐かしい会話を思い出す。

「…また、チカと…」
独り言のように呟いたが、その瞬間、心は鋭く痛んだ。胸の奥からわき出る感情はすぐに抑えられるものではなかった。

元々涙脆い方ではない。それに、自分は強い方だと思っていたはずなのに。
けれど違ったのだろうか。私は本当は弱くて、周りに悟られないように生きてきただけ。

でもそれは結局仇(あだ)となって私が強いように見えたから、冷たいように見えたから、だからこそチカに嫌われた。
そう思うと鼻の奥がツーンと痛み、一気に涙が込み上げてきた。


「………っ…うっ…どうしたら良かったの」

泣きたくなかった。強くあろうとしてきた。それなのに何かが崩れ去っていってしまう。
溢れ出す涙は、堪(こら)えることができず止められない。
綺麗な空とは対称的に私はその場で座り込みわんわんと泣きじゃくってしまった。