でも、なんで?そんな訳がない。

だって、だって…私は友達の好きな人を奪った。
それに対して何も向き合わず私は逃げた。

チカの気持ちを何も聞かずに、逃げたんだ。
私はそう思うと感情が抑えられなかった。

「…っ…でも!私はチカの気持ちを何もわかってあげられなかった…!!私は自分が責められるのが怖くて逃げたの」

最低でしょ、と自嘲気味に続けようとする私に、暖はそれを止めるように口元に人差し指をあててきた。
まるでシーと優しく子供をなだめるかのように。

暖は首を横に振って、穏やかな表情で私に語りかける。

「…それは違うよ、冷。」
そう言う彼の口調はすごく暖かくて、私の心に固くへばりつく氷を一つずつ溶かすように話し始める。

「冷は、優しいから。だから辛かったんだよね、友達に辛い思いをさせたことが」

ゆっくりと、一つ一つ丁寧に。

「自分を、許せなかったんだよね。だから壁を作ったんでしょ?もう誰も傷付けないように」

本当は…怖かった。自分を受け入れてくれる人がいても、チカみたいに傷付けてしまうかもしれないって。

私は氷のような人間だって。鋭利で、冷たくて、私という人間は誰かに近寄ったら駄目だって。
「……っ」

「冷は、自分を冷たい人間だと思ってるかもしれないけどそんなことないよ」

暖が喋る言葉はどれもが優しくて、暖かくて、私にずっとずっとついている氷を簡単に溶かしてしまう。

涙がぐっと込み上げ声を詰まらせる。
「ぅ…っな、なんでっ…はる…」

「冷のこと知ってるから。僕はちゃんと知ってるよ。優しくて、素直で、本当は少しだけ泣き虫でしょ」

そう言って笑う彼はすごく綺麗で、なんだか昔を懐かしむような顔で微笑んでいた。
私がずっと隠していたことはなぜか暖にはお見通しで。

本当はこの世界がつまらないだとかそんなことを思ってる訳じゃなかった。

期待したくなかっただけだった。

このどうしても苦しい世界に希望をもってしまったらいつか辛くなるかもしれないから。