けれど頭をふってそんな邪念も一緒に振り払う。早く返事をしないと。

[ よかった、無理はしないでお大事にしてね。私は全然大丈夫、ぴんぴんしてるよ ]
と返し、無駄な心配はかけさせないようにする。

暖は軽い風邪と言っているけれどそれにしろ体調が悪いのには変わらない。

それに加えて私の心配事まで関わったらめんどくさいことになるはずだ。

これ以上暖とのトーク画面を見ていたら名残惜しくなってしまいそうだったので私はスマホの電源を切り、無理やり目を閉じた。

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「僕の名前はね____」

優しい夢を見た。

そこにはぼんやりとした男の子がでてきた。そして幼い頃の私もいた。
前にも見たことがあるような、懐かしい夢。

彼は「小説家になりたい」と言っていた。
こんな夢もったって僕なんかがなれるかは分からないけどねと、自分を卑下するように話す。

「それでも、辛い思いをしている人をせめて、小説の中だけでもいいから僕が差し伸べられる手なら救ってあげたい」と。

子供ながらに彼の言葉はどれも一つ一つが優しくて、暖かい陽だまりの中にいるかのようだ。

自分のことなんてどうでもいいような、なのに周りのことになると途端に優しくなる。

自分にももっと優しくしてあげればいいのに。

誰よりも優しい君に伝えたかった。
君は誰なのか、分からない。

夢の中の私は彼の名前を呼んでいるのに。

どれだけ聞きたくても、覚えていたくても、なぜか君の名前だけが泡のようにかき消されて。

「‪……なら、きっと皆に小説を届けられるよ。それで悲しんでる人たちを救ってあげてよ」

小さな私がそんなことを言っている。

なんの根拠もない。保証もない。
でも、それでも、私は彼に伝えたい。


君ならきっと誰かを救って、変えてあげることができるから。