その日は雨が降っていた。

天気予報ではこんな事言われていなかったのにと傘を持ってきていないのを思い出しながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。

まぁチカと一緒に傘にはいればいいだろうと思い、いつものようにチカに帰ろうと声をかけようとしたその時だった。

「ほんとひどいよ、冷」

「それな!チカの好きな人横取りしたあげく色目まで使っちゃってさ」

「…いっつも皆には冷たいくせになんで湊にだけあんなデレデレしちゃってんの」

話の内容を聞くに、それは私のことのように聞こえた。いや、きっと私のことでしかないのだろう。

ただこの時はただただ信じたくなかったのだ。

目の前が暗くなっていく。

なんで?どうして?そんなつもりはなかったのに。

チカが湊のことを好きだったなんて。初めて知ったことだった。

私はとっさにトイレにかけこんだ。
ドアを閉め、狭い個室の中で頭を抱える。チカの言葉が何度も頭の中で反響しては消えていく。その度に胸が締め付けられるような痛みが走る。

壁に背中を預け、雨音に耳を澄ませる。外は相変わらず激しく降り続けている。その音が、まるで私の心の中の嵐のように思えた。


『冷たいくせに』


その言葉が頭にこびりついて離れない。チカは、あのチカが本当に私にそんなことを言ったのだろうか。

けれど───本当はずっと怖かった。
チカとは湊のことを話すたびに、以前のように私とふざけ合う時間が減っていった。そして、私が湊と仲良く話している姿を見たあの日、チカの視線が鋭くなったことに気づいた。言葉には出さなかったけれど、その目には小さな棘が潜んでいた。

その棘は、次第に私の心に深く刺さりじわじわと痛みを広げていた。
安心と同時にいつ失望されてしまうのかという感情が同時に襲っていた。

でもこんなタイミングでくるなんて、思ってもみなかった。直接ではなく間接的になんて聞きたくなかった。

私のせい、私が悪い?

そうか、名前の通りだ、私は冷たくて氷みたいで周りから嫌われていく。

外を見ると、雨はさっきよりも強くなっていた。