「…そんなに見られると照れるよ」
ふと聞こえた声に我に返る。暖が困ったように笑っていた。
考え事をしていたら、暖を無意識に見つめてしまっていたらしい。

「あ!ご、ごめんぼーっとしてて…」
大丈夫だよ、と笑って返してくれる彼だけれど暖といるとぼーっとしてしまうことが多い気がする。

肩の荷が降りるというか、深く考えずに自然体でいられる気分になる。

これはきっと甘えなのかもしれないな。
でもそれだけ暖の隣は心地よくて。

___昔からずっと一緒にいたかのような、そんな気分になる。

無言でいても隣にいるだけで安心できる。
つい最近知り合ったばかりなのに。不思議だ。

ほわほわと勝手に温かい気持ちになっていると暖が口を開いた。

「そういえば、僕たち連絡先交換してなかったよね。冷さえ良ければ交換しない?」

「…あ、うん、私なんかでよければ」

急なことに驚いてすぐに返事ができずしどろもどろになってしまう。慌ててスマホを取り出す。

彼からそんな言葉がでてくるとは思っていなかった。

「今日クラスの子からその話をされて冷を思い出してね…」と暖は話を続ける。
当たり前かのように話すものだから危うく聞き逃してしまいそうになった。

それは今朝のことだろうか。
あの時、私のことを思い浮かべてくれていたなんて...考えもしなかった。

さっきよりも、心が温かい気持ちに包まれる。

今は無性に、この気持ちを暖に伝えたいと思った。なぜだろう。
こんな単純なことで些細なことかもしれないけど、それでも暖に知ってほしくなった。

君はいつのまにか周りをあったかくして、私以外にだって、きっと誰かの心を救ってる。

でもそんなこと言われてもきっと君は何もしてないよって、言うんだろう。

「暖といるとね、心があったかくなるの。名前と同じだね」

「……っ!」
彼は一瞬驚いたような表情をする。

でもすぐに「そんな大したことしてないよ」と謙遜しといつもの笑顔に戻っていた。
そんな彼の返しにやっぱり、とつい笑いそうになる。

さっき驚いたような表情を見せたあと彼が一瞬悲しげに、でもその中に幸せも含んだようなそんな笑顔を見せた気がした。

けれど、その後も暖はいつもと変わらない様子だった。