ふと暖の姿が浮かんだ。
暖と話す時はこんなに気負わなくて話せていたなと。

「っ!何考えてるの私…」

駄目だ、とそんな思考をぶんぶんと頭を振ってなくしてから私は家に戻った。
結局家に着いてからもまだ心臓が落ち着かないまま、カレーを作り始めた。

もしあの時チカが近くにいたりなんかしたら…と思ったが、考えるのはやめよう。もう湊とは話す機会なんてないのだ。

それにきっとチカは、暖のことを好きになる。

よし!と気持ちを入れ替えてから私はカレーを作り終えお父さんの帰りを待つことにした。

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チッチッチッチッ…………

時計の音だけが鳴り響く。人がいないとこんなにも家は静かなのか。

私はなんだか悲しい気分になり、それを紛らわすためにテレビでもつけることにした。
けれどテレビでは"余命数ヶ月"という少女が題材とされるドラマが流れていた。

少し見ていたら、結局先程よりも気分が暗くなってしまった気がした。こういう映画は少し苦手だ。
私のような人は生きていて、なぜ生きたいと思う人はいなくなってしまうのだろうか。

まるで花畑の中から素敵な花だけ摘み取っていくのと同じように。
生きているべき人たちはいなくなってしまう。

今見ているものはフィクションの物語なのは分かっている。それでも、この世には余命をもつ人が少なからずいるのだ。

『私、まだ死にたくないよ……』
ドラマの中の少女はそんな言葉を吐いていた。

余命という言葉は残酷だ。神様もひどいことをする。
そもそも神様なんてこの世界にいるのだろうか。

だって、自分のタイムリミットが分かっていて生きていくなんて辛すぎる。

家族だって悲しくて、寂しくて、苦しむ時間を過ごすと思う。きっと本人がいちばん辛いはずだけれど、周りも同じように辛いんだろう。

どうしてこうも世の中は上手くいかないのだろうか。

そんな中、ふと今の話と繋がるようにお母さんのことを思い出した。
病気でなくなってしまった…お母さん。

私が産まれてすぐにお母さんと写っている写真が飾ってあるのを見る。
その写真の中のお母さんは優しそうな顔をしていて、私のことを愛おしそうに見つめていた。

お母さんがもし今もいたらどんな家庭になっていたのかな。
ありもしない幻想を抱いて寂しさをたまに感じてしまう。

皆はどんな家庭なのだろう。
お父さんとお母さんが一緒に暮らしている家は幸せなのかな。