遡ること一年前。

私がいじめの標的にされるようになったのは中学三年生の春頃だった。

私の名前は冷と書いて､れいと読む。

その名の通りだ、冷めてて、なにか物事に熱心になれることもない。人に特別優しいわけでもない。

最初はなんでこんな名前つけたんだと親に思っていたけれど私のような人間にはお似合いなのかもしれない。
そんな私へのいじめは、ある出来事がきっかけで始まった。

＊

「ねー冷ってさ、反応薄くない？まぁそんなとこも好きだけど！」

何言ってんの、と軽くため息をつきながらも笑いを含んで答える。
その言葉がどれだけ私を救ってくれたか分からない。表情には出さなかったけれど、私の胸の奥では何かが静かに揺れていた。

あの頃のチカは、私の唯一の友達だった。

いつも隣にいて、くだらないことでも一緒に笑い合っていた。あの瞬間だけは、私の「冷」という名前も、どうしようもなく冷めた自分自身も、全部忘れることができた。
こんな私のことを受け入れてくれて友達でいてくれるのはチカしかいないと思う。

この先も、ずっとチカといられるだろうとそう信じていた。

でもそんな日々は終わりを告げた。

「好きです。付き合ってください」

人生で初めて告白というものをされた。

誰だろうと思いながら相手の顔を見ると、黒髪の短髪に優しそうな目元はまさに爽やかな好青年という感じの人だった。

端正な顔立ちをしている彼を見ると、この人はモテるだろうなぁと他人事のように思う。

でもだからこそなぜ私なのだろう？どこかで話したっけ？と疑問が次々に浮かぶ。

彼も私のそんな様子を察したのだろう。気を使って私が話す前に彼の方から口を開いくれた。

「俺､チカの友達の湊っていうんだけど覚えてないかな？」

チカの友達？うーん覚えていると言われれば覚えているような覚えていないような…。

「ごめんなさい。覚えてないです」
悩んだ結果、結局気の利かない返しになってしまった。

「あはは、そうだよね急にごめんね？」

少し寂しそうな顔をするも微笑みながら返してくれる。口調や態度から優しい人なのだということだけはわかった。