だが、暖から返された言葉は想定外のものだった。

「だめだよ、小雨でも雨にあたれば風邪ひいちゃうこともあるんだよ?」
そう言って心配そうに眉をさげながら私を見つめる。
そんな子犬のような顔で言われると私もなかなか断れずに「わかった…」と了承してしまった。

なんだか彼には、年の離れた兄か、お父さんのような安心感を覚えた。まるで大切に守ってくれる存在のようで、でもそれが少し重荷に感じる自分がいる。

そんなことを考えている間にも、暖はすぐに傘をさしてくれていた。

「じゃあ行こっか」
優しい表情を私に向けてくれる。
チカのためにと思うはずなのに断れない自分の弱い心があった。少しの幸せを感じていることに、罪悪感が溜まっていく。
はぁと私は今日何度目かのため息をついた。

近寄ると肩があたってしまいそうで、せめてもの罪滅ぼしの気持ちで私は暖から少し距離をとる。

そんな私に対して「肩、濡れちゃうよ」と私を引き寄せてくる。こうやって改めて隣に並んでみると意外と身長が高いことに気付いた。

…やっぱり良くない。
彼のことを見れば見るほど顔が熱くなって、胸が高鳴って、意識してしまう。

きっとそれは私だけで彼は何とも思っていないのに。
私のこの気持ちは決して恋なんかではない。

きっと、最近は人と話していないからだ。久々に優しくされたせいで脳がバグを起こしているのだろう。

私は自分にそう言い聞かせて、自分を強く保つために両頬を軽くぺちんと叩いた。
その様子を暖が何事かというような目で見てくる。変人だと思われる前に、私はすぐさま話題を探した。