暖の方を見ると彼とバチッと目が合う。
私はとっさに目を逸らしてしまうが態度が悪くなってしまったかもと思い、チラッともう一度見た。

綻ぶように私に向かって微笑んでくれる彼が見えて、私の心はドキリと跳ねた。
その笑顔は、まるで私を包み込むような優しさがあった。こんなことでドキドキしている自分が少し情けなく感じてしまう。

幸い周りには気付かれていなさそうだったので良かった。私と彼に関係があるなんて知られたらクラスメイト達の反応はどうなることだろうか。

特に女子達、佳奈やチカに知られた日にはおしまいだ。
調子に乗るな、と言われ徹底的ないじめが始まるかもしれない。そんな想像をしただけでブルッと寒気がした。

暖は教卓に立ち、黒板にスラスラと丁寧な字で名前を書いていく。

"桜田 暖"

「今日からこのクラスの一員になります、はるって読むから好きに呼んでください」

ずっとニコニコしながら話す暖は女子全員の心を射止めてしまいそうだ。

「暖は家の事情でこっちに引っ越してきた。まだ分からないことも多いと思うから皆よろしく頼むぞー」

「任せてよ先生ー」とチカの声が聞こえてくる。

「おーチカ頼もしいなあ」と先生が軽くあしらうが、そんな会話でさえ私はやるせない気持ちになった。
チカはかわいくて明るい、そして私をのぞいてはクラスメイト皆に優しく接している。

暖ともきっとすぐに打ち解けて仲良くなるのだろう。

「じゃあ暖は1番後ろの席が空いてるからチカの隣に座ってくれ」

暖は微笑みながら「分かりました」と先生に軽く会釈をしてチカの隣に座った。

漫画やアニメのようには上手くいかないものだ。
私の隣がたまたま空いているなんてこともないし、話す機会すらない。

きっとこの物語の主人公はチカのような人。
私のような平凡な人間には不釣り合いだ。