呆れられるかもしれない。怒られるかもしれない。悲しませるかもしれない。

そんな不安を抱えるなか、お父さんから発せられたのは予想外の言葉だった。

「良いに決まってるだろう…冷の、好きなことをやりなさい。」

そうやって言うお父さんはとても優しい目をしていて穏やかな声のトーンだった。
あまりにもあっさりしすぎて拍子抜けしてしまいそうだ。

でも、確かにお父さんはこういう人だった。

お母さんが亡くなってからもいつも優しくて私を男手一人で育ててくれて、私を傍で支えてくれていた。

「っ…ありがとう、お父さん!」

先程まで緊張していたのか一気に全身の力が抜けていく。それと同時に涙腺まで崩壊しそうになる。

「冷は子供の頃から我慢ばかりして自分のことは後回しで大人びた子だったよ…」

目尻に溜まった涙を拭っているとお父さんがそんなことを話し始めてくれた。

「自分から率先してしたいことを言うなんて今まで一度もなかったからな、お父さんは嬉しいんだよ」

怒られるかもと思っていたのにお父さんはその反対のことを考えていてくれていたのか。

「冷が変わったのは、あの男の子のおかげかもな」
お父さんは目尻をくしゃりと細めて眉をさげていていつにも増して優しい表情に見えた。

「うん…そうだと嬉しいな」
私もお父さんにつられるかのようにくしゃりと笑った。