『…もしもし?』

「急にかけてごめん、びっくりしたかな」

『ううん、大丈夫だよ』

暖の声を電話越しで聞くのは初めてで、いつもよりも少し低い声に愛おしさを感じてしまう。

「私暖に伝えたいことがあってね」
『…うん』
落ち着いて優しいトーンで返事をする彼は、今どんな表情をしているだろうか。

「本当は怖いんだ。暖がいなくなるなんて…信じたくない」

暖はまた同じように『うん』と丁寧に相槌をする。
たった一言だけなのに、それは私の心を落ち着かせてくれて少しだけ安心させた。

ふぅーっと深呼吸をしてから、私は次の言葉を紡ぐ。

「でも、私が考えるべきなのはそれじゃないんじゃないのかなって今思ったんだ」

『…うん』

「自分を守るために現実から逃げるんじゃなくて…私は今と向き合って、暖を幸せにさせたい」

『ふふ、それ僕が言うセリフじゃない?』
茶化すように返す暖の声は、少しだけ詰まっているようで涙ぐんでいるように聞こえた。

「最後までずっと、ずっと…一緒にいたい。暖が私を救ってくれたように私は暖を救いたい」

『…そっか』

暖が鼻をすすっているのが電話越しでも分かった。
そんな彼につられるように、私もいつの間にか目からは涙がでてきて次から次へと流れ落ちる。

『じゃあ冷…僕の願い、聞いてくれる?』
「っ…もちろん」
私は目を濡らしながらも暖の言葉に耳を傾けた。

『残り1年もないこの期間に、僕は君と過ごしたい。
特別なことなんてなくていい…冷といるだけで幸せなんだ。本当に』

「……っう、ん」

『ねえ冷、また直接伝えさせて。
______好きだよ、大好き。小さい頃からずっと』

暖のその言葉が嬉しくて、幸せで涙がまたこぼれる。

「っぅ…私も…っ好き、暖」

私は嗚咽がこみ上げる中で、必死に声をだした。

なんで、なんでなんだろう。

想いが通じ合うことがこんなにも喜びに満ち溢れてたまらないのに、心は同時にぎゅっと締め付けられて苦しかった。