「桐生くんがね、暖のこと探すの手伝ってくれたんだよ」

「そうなの?透和はああ見えて優しいから、冷も仲良くしてあげてよ」

そうやって笑う暖の顔はなんだか寂しそうで、その未来に暖はいないのかもしれないと思ってしまう。

目頭が熱くなるのを感じながらも私は必死に考えないように、出来るかぎり自然に振る舞う。

私たちはその後も、何ともないような日常的な会話をした。まるで何もなかったかのように。

もういっそのこと本当に何もなかったならいいのに、何度も何度も私は心の中でそう唱えていた。

「…じゃあ、またね暖」
「うん、冷もまたね」

その日は学校には戻らずに、家に帰った。
チカが上手いこと言ってくれたのか私は体調不良で早退ということになっているらしい。

家につくと、急に今まで張りつめていた涙が込み上げてくる。

「…っ、暖…いなくならないでよ」
誰もいないリビングでは私の声がいつもよりも虚しく、響き渡っていた。

お父さんが帰ってきたあとも私はずっと元気がなかった。暖がもう1年も経たないうちにいなくなってしまうなんて実感できない。

「冷、何かあったのか?」
お父さんにはいつもと様子が違うことなんかお見通しで。嘘をつく理由もないと思い、私は今までのことを全て話すことにした。

自分の記憶を取り戻したこと、暖と出会ったこと、そして暖が私を救ってくれたこと。

私が話し終えたあとのお父さんは何ともいえない表情をして「そうか…」とだけ言って悔しげに俯いた。

その日はそれ以上話せる雰囲気ではなかった。