「ふふ、でもよかった。君の笑った顔が見れて」

まだ笑いがこぼれていた時、急にそんなことを言われるので驚いて笑いを止めた。

「…？どういうこと？」

「だって僕は君の泣いた顔しか見てなかったから、あんな場所で一人でいたら誰だって心配するよ」

彼が優しくそう言うのを聞いて、じんわりと心が暖かくなるのを感じる。
泣いていた理由を無理に聞いてこない彼の優しさが、とてもありがたかった。自分を「冷」という名前ではなく、ただ一人の人間として見てくれているような気がして。
そのことが、何よりも救いだった。

「…ありがとう。暖」

彼と一緒にいる時間はどこか特別で心が軽くなる。けれどふと現実に戻り、周囲のことを思い出す。

もうそろそろクラスメイトも登校し始める頃だろう。
もし彼が、私と一緒にいるところを見られたら彼まで何か言われるかもしれない。

そんなことを考えながら、ふっと思い浮かべたのはチカのことだった。あの子だったら、こんなイケメンを見たら飛びついてくるだろうか。そんな光景を想像し少しだけ嫌な気分になった。

私が色々なことを考えている最中も、暖はにこにこと笑みを浮かべている。私が見上げると「ん？」と首をかしげていた。
こんな純粋そうな人が好奇の目に晒されるのは嫌だった。

それにこんなにも綺麗な髪色と瞳をしているのだ。街中で歩いているだけでも目立ちそうだ。
そんなことを考えているうちにぞろぞろとクラスメイト達が登校してくるのが教室の窓から見え始めた。

「私、ちょっとお手洗いいってくるね」
「うん。じゃあ冷、また後でね」