ぼんやりと下を向いていた。学校に向かう途中に私に近づいてきていたトラックにも気付かずに。

キキーーッ!!

「…え?」
横を見るともうトラックは私のすぐ近くにありその瞬間私の視界は真っ白になって、意識を手放した。

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「れい!冷…っ!!!」

目を覚ますとそこにはボロボロと泣いているお父さんの顔があった。

「ぁっ…お父さん、私…」
「っ冷…!!よかった…無事で本当に、よかった」

私は強く頭を打ったが命に別状はなく奇跡的に生きていた。トラックの運転手が早めにブレーキを踏んでくれていたからだったそうだ。

もう少し遅ければ、私は危うく死んでいたのかもしれない。

「私、ぼんやりしてたみたいでごめんなさい」
「もしかしてまだあの男の子のことで悩んでるのか?」
「…?何の話してるの、お父さん」

私は頭を打った衝撃で一部の記憶をなくしていた。
自分の都合のいいように、嫌な記憶をなくして暖のことも一緒に忘れていたのだ。

「っいや…なんでもない。とにかく無事でよかった」

今ならなんでお父さんが私に嘘をついたのか分かる。
きっとまた思い出したら、私が苦しくて、辛い思いをするから。

それならいっそのこともう何も思い出さないで私には幸せでいてほしかったんだと思う。
お父さんなりの優しさだったのだろう。

きっとこの頃から私はずっと蓋をしてきた。
自分の記憶を無理やり閉じ込めるように幼い私は、もうこんな辛い思いをしたくなかったのだろう。

でも、もう一度君と出会ってしまったから。

それは私の本能だったのかもしれない、分からないけれど暖を見た瞬間に私の記憶は蓋を開けたがっていた。

もうあんな思いは嫌だという自分の弱い心と、もう一度暖のことを思い出したいという思いが絡まりあっていたんだ。