「また会ったね」

彼がにこりと微笑むと、まるで空気が変わったかのようだった。彼の周りだけが輝いていて、優しい風が彼を包んでいるように見える。
昨日よりも間近でしっかり見るとやは綺麗な見た目をしていた。ふんわりとした髪と、澄んだ瞳はまるで空の青を映し込んだかのような透明感がある。
自分の心臓が軽く跳ねるのを感じた。

「あ、あの昨日はすみませんでした!急に逃げ出したりして…それに、ありがとうございました」

彼は一瞬驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに優しい笑顔を見せて「大丈夫だよ」と返してくれた。
その笑顔を見て一瞬思考が止まった。でも、次の瞬間にふと疑問が浮かぶ。

なんで彼がこの学校にいるんだろう…?
同じクラスでもないし、学校で見かけたこともない。それに、これほどの容姿ならば、もっと有名になっていてもおかしくない。

容姿端麗の王子様のような顔立ちは女子が食いつきそうだ。

彼の顔を見ながらそんな疑問が頭の中でぐるぐる回るが、不思議と口に出す気にはならなかった。彼が今ここにいる、それだけでいいような気がした。

「君の名前はなんて言うの?」

彼がふわりと問いかけてきたその瞬間、喉が一瞬つまる。

「っ、私は……氷室(ひむろ)冷。冷たいって書いてれいって読むの」

その名前を口にするのが少し怖かった。チカの時と同じように、また「冷たい人」だと思われるのではないか、昔のように誤解されるのではないかと不安がこみ上げてくる。

けれどそんな不安を彼はすぐに消し去った。

「そっか。綺麗な名前だね」
それだけで心臓が一瞬止まったように感じた。誰かにそんなふうに名前を褒められたのは初めてだったからだ。

「そう、かな…ありがとう。貴方の名前はなんて言うの?」