「こんなのはどう?」
チカが見せてきたのは大きめのパールがついているシンプルなクリップだった。

もちろんそれも良いと思ったのだが、私は一つだけどうしても気になるものがあった。

「これとか…どうかな?」
控えめに尋ねる私にチカは一瞬目をぱちくりとさせたが、すぐに「いいんじゃない?」と返してくれた。

私が目に入ったのは桜の花がついているクリップだった。なぜかこれは暖を連想させるなと思ってしまったからだ。

色素が薄いほんのり桜色が混じっているような髪色。

そんなことを思い浮かべてこれを選ぶなんて我ながら気持ち悪いな、と自分でひいてしまう。

でも、やっぱり私はこれがいいと思った。
服装に合うだとか、自分に似合うかなんて関係ない。

チカはそんな私を見て微笑んでいた。
「どうしたの?」
「んー、なんか冷から提案するの珍しいなと思って。嬉しいんだ」

チカがそんなことを考えていたなんてと驚く。

確かに私は自分の意見をそこまで言う方ではないかもしれない。
今日だってほぼチカに任せっきりだった。

そう思うとなんだか急に恥ずかしくなってくる。
自分からわざわざ選んだ理由が"暖の髪色に似ていたから"なんて口が裂けても言えない。

私は顔が赤くなっているのがバレないようにチカに「お会計してくる」と言って足早にレジへと向かった。

買い物をすませたあと、私たちは最後の準備へと取り掛かった。


「じゃあ今からメイクしてくから動かないでね!」
「あ、うん」
張り切っているチカとか裏腹に私はあまり気が乗らなかった。

服やアクセなどもろもろ買ったあとに私はチカの家へと向かった。化粧品がたくさんあるからと言ってメイクを教えてもらうことにしたのだ。

メイク自体に興味がないわけではないけれど、どれを選べばいいかとかやり方だったりが全く分からない私は手をつけていなかったのだ。

本当に私なんかがメイクをしてかわいくなるのかな。

そんな不安をもつまだ表情が固い私に「ほらリラックスして!」とチカが言う。

チカは何かを取り出して私の顔に塗っている。
今何をされているのかも分からないままどんどん事は進んでいった。

そして数分が経った頃だ。

「……よし!完成かな」