その冬のできごと以来、おれと希子の距離は急激に縮まった。

 女友達のいない希子は、休み時間や放課後になると一番におれのそばに寄ってきた。

 希子の家庭事情はよくわからないけれど、彼女は駅の近くの高層マンションにひとりきりで住んでいた。

 希子の話が本当なら、彼女の父親はそれなりの地位と財力のある人らしい。だが、仕事ばかりで家庭を顧みない人で、希子の母親は、彼女が小さい頃に離婚して出て行ってしまった。

 母親が出て行ったあと、父親は希子の世話を家政婦に任せて、ほとんど家に寄り付かなくなった。希子の父親は今、広い庭のある高級住宅街で、彼女の存在すら知らない新しい家族と暮らしているらしい。

 小さな頃に家族に捨てられた希子は、いつも淋しがっていた。夜にひとりきりで家にいると、特に淋しさが募るらしい。

 希子か「さびしい」とおれを呼ぶのは、大抵、夜だった。

 希子に「淋しい」と呼び出されば、おらは真夜中でも会いに行ったし、彼女が眠れない夜は長電話にも付き合った。

「ユキちゃん、あたしのこと好き?」

 淋しさを紛らわせるためか、希子はときどき不安そうにおれに問いかけてきた。

「好きだ」と答えれば満たされた表情をする希子に、おれの気持ちは徐々に傾いていった。

 だから、希子に求められれば抱きしめてキスだってした。

 希子に問いかけられて「好きだ」と言うと、彼女も「あたしもユキちゃんのこと好き」と笑う。最初はその言葉が嬉しくて、本気にして浮かれていた。

 だけど希子はおれを「好きだ」と言いながら、誘われれば他の男に簡単に流された。

 おれの腕の中で一時の淋しさを埋めた翌日に、別の男と平気でキスできた。

 あの冬のできごと以来、おれは希子のいちばん近くにいたけれど、彼女の淋しさはいつまで経っても少しも埋まらなかった。

 おれがそばを離れないと思っている希子は、おれの気持ちを知ってか、知らずか、いつだって平気でウソをつく。

『死にたい』
『会いたい』
『淋しい』

 そうおれに告げたその口で、別の誰かにも「好きだ」と囁く。

 こんな状況に、いつまで耐えられるだろう。

 真夜中に呼び出されて、もう何度目になるかわからない裏切りを目にしたおれは、その夜初めて、希子との約束を破った。