『──死にたい』

 深夜0時前。留守電に残っていた、今にも泣きそうな切羽詰まった声。それを聞いて、慌てて駆け付けたのに。

 おれに留守電を残した希子は、マンションの前で別の男と堂々とキスをしていた。

 相手の男の顔には見覚えがある。おそらく、同じ大学の学生だ。大学の食堂で、彼女と親しげにランチしていたのを見たことがある。

「はぁー、最悪……」

 スマホを握りしめて、ため息を吐く。

 今電話をかけたら、ちょっとは動揺すんのかな。

 スマホで彼女の番号を探しかけて、すぐに無駄だと苦笑した。

 嘘が吐くのが上手い彼女は、スマホの画面に浮かぶおれの名前を見ても顔色を変えたりはしないだろう。

 彼女は今夜、あの男を部屋に連れ込むつもりなのだろうか。それを考えたら、心が潰れそうでやりきれない。

 彼女のことなんて切り捨ててしまえば楽になる。それがわかっているのに、何年も前に交わした約束が今もおれを縛り付けている。


『必要とするときは好きなだけそばにいる』と、彼女に約束したのはおれだから。