エロゲーは無事にゲット出来た。
これで安心するのは、まだ早い。
無事にエロゲーを自宅まで持って帰るのが、純一に課されたミッションだからだ。
リュックサックの一番下に封印したとはいえ、何らかのアクシデントが起きた際。
天神というカップルだらけの街に、裸体の少女がプリントされた重箱を放り投げることになれば……。
純一は人間として、死んでしまうだろう。
渡辺通りを一人で歩く。
この年のクリスマス・イヴは、記録的な大雪。
ホワイトクリスマスだった。
行き交う人々は、どこか嬉しそうだった。
それもそうだろう……ほとんどがカップルだからだ。
デートを楽しんだあと、激しい夜の大運動会を、ホテル内で繰り広げるのだろうから。
本来ならこのまま、帰宅するはずなのだが……。
純一は天神から離れるのではなく、レコードショップへ向かうことにした。
これには深い理由がある。
非リア充の純一が、イブの日に天神という街へ行くことなんて、有り得ないからだ。
唯一、大好きな映画館へ向かうことはあっても、買い物などする場所は無い。
そんな陰キャの彼が、家を出る際、母親に「天神へ行ってくる」と言えば、絶対に疑われる。
だから、彼は『フェイク』を考えた。
2000年代初め、今ほどネットショッピングが簡単ではなく。
洋楽などはレコードショップで買う方が早かった。
そして、純一が好きなアメリカのバンドが、リミックス・アルバムを発売するという。
これが彼の用意したフェイクだ。
レコードショップまでエロゲーを担いで、歩く純一。
何時しかカップルの姿が少なくなり、何故かセーラー服を着た中学生たちが目に入る。
それも数人などではなく、何百人も横並びに立って渡辺通りを占領していた。
「募金にご協力くださ~い!」
(なんだ!?)
雪が降る中、大きな白い箱を持って、叫んでいる。
全員、セーラー服のみで、コートは着用していない。
手袋もしないで、募金活動に励んでいる。
この時、純一の胸は激しい痛みを訴えていた。
彼の良心である。
自分は暖かいダッフルコートに手袋まで着用して、歩いているのに。
この幼い少女たちは、聖夜に募金活動を頑張っている。
否っ! 良心が痛むのは、そこじゃない。
彼の背中にエロゲーがあるからだ!
「……」
「「「恵まれない子供たちに、どうかお願いいたします!」」」
彼女たちを無視し、純一は顔を真っ赤にさせて渡辺通りを歩き続ける。
本来の彼ならば、性格からして募金するはずだが……エロゲーが邪魔していた。
~それから10分後~
レコードショップへ入って、フェイク用に考えていたバンドのアルバムだが。
なぜか店頭に置いていない。
焦った純一は、店員のお姉さんに聞いてみる。
「あ、あの今日、発売のリミックス・アルバムは……」
「ああ、あのバンドですね。すみません、入荷が遅れてまして」
「そ、そうですか……」
純一は絶望した。
帰って母さんに、何と言い訳すればいいのだろうか? と。
仕方ないので、映画を観ていたという、嘘に変えるべきか……。
~さらに30分後~
仕方なく天神で映画を観ていたという、言い訳に変えたのだが。
帰りのバスに乗っても、純一は母親の勘が怖かった。
どうしても、リミックス・アルバムを手に入れたかった純一は、地元のバス停から降りると。
ダメもとで近所のレコードショップへ寄ってみることにした。
店に入って洋楽の棚を探していると、お目当てのリミックス・アルバムが販売していた。
洋盤ではなく、邦盤の方だが……。
しかしこれで母親や家族に対する、言い訳が出来た!
純一は胸を張って、帰宅した。
声を大にして、母親に叫ぶ。
「ただいま~! いやぁ、このリミックス・アルバムが欲しくて、わざわざ天神まで行ったんだ!」
「なに、急に? うるさいわよ、あんた」
ともかく、エロゲーを無事に自宅まで持って帰ることに成功した!