――その後、僕はクレナイに案内されて、一番近い集落のペトラ村に到着した。
想像していた通り、ペトラ村は廃墟同然の荒廃ぶりだった。
建物はボロボロ。道はガタガタ。畑も荒れ放題で人が住んでいるのか怪しい有様だ。
「おーい! みんなー! 魔導師様が来てくれたよー!」
クレナイが大声を張り上げると、無人の廃屋にしか見えなかった建物から、何人かの村人が恐る恐る姿を現した。
大勢の、とはお世辞にも言えない。
村として機能しているのかも怪しい人数で、みんな一様に期待の眼差しを僕に向けている。
種族構成は人間と獣人がおおよそ半々。
獣人といっても、クレナイと同じく動物の耳や尻尾がある程度。
頭や手足が動物になっているようなタイプは見当たらない。
僕の近くにいるのは中高年や老人で、建物の中から若い女性や子供達が様子を伺っている。
「あなたが魔導師様ですか! 私がペトラ村の村長でございます!」
総白髪の老人が一歩前に進み出て、深々と頭を下げた。
「この度は本当に、ほんっとーに! よくいらっしゃいました!」
「え、ええと……色々と聞きたいことがあるんですが……」
「はい! 何なりと!」
こんなに激しく頭を下げられてしまうと、嬉しさよりも困惑が強くなってしまう。
とりあえず、何から尋ねようか。
若い男の村人が見当たらないことも気になるけど、やっぱりまずは仕事に関わることからだ。
「前任の魔導師が逃げてしまったと聞きました。一体何があったんですか?」
「理由は分かりません。ある日突然、でしたので。ただ……親しかった村人に『このままだと死んでしまう』と漏らしていたそうです」
ごくりと生唾を飲む。
魔導師が命の危険を感じるほどの『何か』――そんなものが、ここにあったのだろうか。
「あれから一年! マクリア地方の住人は魔法の恩恵を受けられぬまま、どうにか暮らしてまいりました! どうかお力添えを!」
「いや、まぁ、それが仕事なので……」
皆の期待の眼差しが重い。重すぎる。
「……その、他の田舎町みたいに、手作業で仕事をするというのは……」
「もちろんやってきました! しかしながら、この地方は土地が痩せていて作物が育ちにくく、しかも若者は『要塞』に動員され、労働力にも事欠く始末! 壊れた建物を直すことすらままなりません!」
「要塞?」
何気なく聞き返すと、村長は地平線の向こうの山と森の方角を指さした。
「あちらに大きな要塞がございます。百年前の大きな内乱の頃に使われ、長らく打ち捨てられていたのですが、先代の領主様が修理させて軍隊を置くようになりました。言うまでもなく、兵士達は周辺の村落から集められた若者です」
「動員ってそういう……道理で若い男が見当たらないと思ったら。でもどうして、今更そんな要塞を?」
「亜人と魔獣の脅威に対抗するためです。要塞よりも西の山と森は、亜人と魔獣の巣窟です。なので、私共も要塞の存在には感謝をしておるのですが……」
村の運営に人手を回せば防衛力が足りなくなる。
防衛力を充実させれば村の運営の人手が足りなくなる。
まさに、あちらを立てればこちらが立たず、という奴だ。
「しかし! 魔導師様さえいらっしゃれば、この地域も息を吹き返すに違いありません! 何卒、何卒……!」
「分かってますって! 分かりましたって! 任せてください!」
しつこく頭を下げまくる村長を宥めながら、とんでもない貧乏くじを引かされてしまったものだと嘆息する。
僕が思い描いていたのは気楽な田舎暮らしだった。
こんなに強烈な期待とプレッシャーを背負った復興事業なんかじゃない。
けれど考えてみれば、僕のことを毛嫌いしていた連中が、僕の望み通りの平穏無事な生活を提供してくれるはずがなかった。
前任者の逃亡も把握していたはずだし、ちょうどいいから厄介事を押し付けてやろうと考えて、左遷先を決めたに違いない。
「……トベラ大臣……さすがに恨むぞ……!」
僕は小声で恨み節を零しながら、遠い空を仰ぐことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「うう……疲れた……」
粗末なベッドに頭から倒れ込む。
結局、僕はマクリア地方に到着した初日から、ボロボロになった建物や水路の修繕に忙殺されることになってしまった。
「……前任者が逃げた理由、分かったかも。これは死ねるわ……せめて魔導師がもう一人……贅沢を言えば二人か三人は……数合わせの魔法使いでもいいから……」
村人から感謝されるのは嬉しいけど、明らかに僕一人でこなせる役目じゃない。
このままじゃ、いつか疲労で死んでしまうんじゃないだろうか。本気で心配になってしまう。
とにかく足りないものが多すぎる。
まず物資が足りない。
交通網が陸運も水運も壊滅的だから、他の村や地域から持ってくるのも一苦労だ。
次に時間が足りない。
冬を越す蓄えのことを考えると、無駄に時間を掛けてダラダラと作業を進めるのは自殺行為だ。
そして何よりも、人手が足りないのが大問題だった。
要塞に動員された連中を呼び戻すわけにはいかないし、かといって老人や子供に無理をさせるわけにもいかない。
このしわ寄せを受けるのは、地域唯一の魔導師である僕一人。
……うん、死ねる。過労死待ったなしだ。
前任者の職務放棄は魔導師失格かもしれないけど、生物としては正解だったのかもしれない。
「お疲れ様です、魔導師様。これ、疲れによく効く薬草のお茶です。こんなものしか出せなくて、ごめんなさい」
クレナイがベッドの横の小さなテーブルにコップを置く。
ちょうど喉が乾いていたので、ベッドから身を起こして有り難くいただくことにする。
……味についてはノーコメント。
一口だけ飲んで渋い顔をしてしまったのは、見なかったことにしてもらいたい。
「それにしても、コハク様! さっきの魔法、本当に凄かったです! 壁の破片がふわーって浮かび上がったと思ったら、パズルみたいにかちかちーってくっついて!」
「僕なんか全然まだまだ。専門の魔導師はもっと効率的にやるよ。たったあれだけで体力使い果たすなんて、修行が足りてない証拠だな」
「またまたぁ。謙遜なんかしなくたっていいんですよ」
嘘偽りのない本音だったのだけれど、クレナイにはマトモに聞き入れてもらえなかった。
何気なく窓の外に視線を向けると、ちょうど外が真っ暗になりつつある頃だった。
「やっぱり、田舎の夜は真っ暗だな」
軽く手を動かして照明魔法を発動させ、空中に小さな光の球体を生成する。
今回は詠唱を省略したので、光球の大きさは指で摘める程度だが、狭い部屋を照らすならこれだけで充分だ。
「都会の夜は明るいんですか?」
「こっちと比べたらね。街のそこら中に街灯があって、夜でも出歩ける程度には明るいんだ」
「そんなに!? 燃料とかどうしてるんです?」
「油とか薪とかは使わないんだよ。魔法で明かりを灯すからね。腕の良い魔法使いなら、一度の詠唱で一区画分の街灯に灯せるんじゃないかな」
王都を離れてまだ二日しか経っていないのに、もう既にあの夜景が懐かしく思えてきてきた。
眠らない街。絢爛たる都市。光の都。
民間の魔法使いが王都を離れたがらないのもよく分かる。
この村を悪く言うつもりはないけれど、客観的に考えて住みやすさは天と地だ。
「……あの、コハク様」
不意に、クレナイが真剣な面持ちで口を開いた。
「私も魔導師に……魔法使いになれませんか? そうすれば、魔導師様の負担も減らせると思うんです」
クレナイの目は本気だ。
もしもそうできれば、どんなに助かることだろう。
半人前の魔法使いが一人加わるだけで、僕の仕事は間違いなく楽になる。
けれど、ハッキリ言って現実的な考えじゃない。
「……手を出してみて」
「えっ? あ、はい」
僕はクレナイが差し出した手を握り、軽く気合を入れて魔力を流し込んだ。
魔力の燐光が僕の腕を介してクレナイの体に行き渡り、そしてあっという間に霧散して消えていく。
「残念だけど……多分、君に魔法は使えないと思う」
「い、今ので分かるんですか!?」
「ある程度はね。魔法を使うためには生まれつきの才能が……いや、正確には『体質』が必要なんだ。こればっかりは、努力や工夫じゃどうにもならない。ああ、でも、こんな体質はない方が当たり前なんだ。落ち込んだりする必要は……」
「やっぱり、都合良くはいかないんですね。村の皆が魔法を使えたら、すぐに復興させられるかもって思ったんですけど」
クレナイの呟きを聞いた瞬間、頭の中を稲妻のような閃きが駆け巡った。
ああ、僕は今まで何をしていたんだ。
こんなことにすら気が付かないなんて、三流にも程がある。
僕は即座にクレナイとの会話を打ち切って、村に来てから放置していた荷物の中身をひっくり返した。
「コハク様! いきなりどうしたんですか!?」
慌てふためくクレナイ。悪いけど説明は後回しだ。現物を見せるのが一番手っ取り早い。
どうして僕がここにいるのかを思い出せ。足りないものは増やせばいい。
魔法省のお偉方も、どうせこんな辺境までは監視していないのだから。
「……よし、こいつを軽く調整してやれば……!」
細長い袋の中から『それ』を引っ張り出す。
先端が尖った杖、というか杭。
頭の方にはスイッチやダイヤルが付いた箱と、透明で黄色い石が取り付けられている。
「杖……ですか?」
クレナイは意味が分からないと言わんばかりに首を傾げる。
期待通りの質問だ。自然と口元が緩んでしまう。
少しくらい自慢したってバチは当たらないだろう。
なにせ、こいつは――
「誰にでも使える魔法の道具さ。魔導師の代わりになる道具だから、さしずめ『魔導器』ってところかな。まだまだ試作品だけどね」
想像していた通り、ペトラ村は廃墟同然の荒廃ぶりだった。
建物はボロボロ。道はガタガタ。畑も荒れ放題で人が住んでいるのか怪しい有様だ。
「おーい! みんなー! 魔導師様が来てくれたよー!」
クレナイが大声を張り上げると、無人の廃屋にしか見えなかった建物から、何人かの村人が恐る恐る姿を現した。
大勢の、とはお世辞にも言えない。
村として機能しているのかも怪しい人数で、みんな一様に期待の眼差しを僕に向けている。
種族構成は人間と獣人がおおよそ半々。
獣人といっても、クレナイと同じく動物の耳や尻尾がある程度。
頭や手足が動物になっているようなタイプは見当たらない。
僕の近くにいるのは中高年や老人で、建物の中から若い女性や子供達が様子を伺っている。
「あなたが魔導師様ですか! 私がペトラ村の村長でございます!」
総白髪の老人が一歩前に進み出て、深々と頭を下げた。
「この度は本当に、ほんっとーに! よくいらっしゃいました!」
「え、ええと……色々と聞きたいことがあるんですが……」
「はい! 何なりと!」
こんなに激しく頭を下げられてしまうと、嬉しさよりも困惑が強くなってしまう。
とりあえず、何から尋ねようか。
若い男の村人が見当たらないことも気になるけど、やっぱりまずは仕事に関わることからだ。
「前任の魔導師が逃げてしまったと聞きました。一体何があったんですか?」
「理由は分かりません。ある日突然、でしたので。ただ……親しかった村人に『このままだと死んでしまう』と漏らしていたそうです」
ごくりと生唾を飲む。
魔導師が命の危険を感じるほどの『何か』――そんなものが、ここにあったのだろうか。
「あれから一年! マクリア地方の住人は魔法の恩恵を受けられぬまま、どうにか暮らしてまいりました! どうかお力添えを!」
「いや、まぁ、それが仕事なので……」
皆の期待の眼差しが重い。重すぎる。
「……その、他の田舎町みたいに、手作業で仕事をするというのは……」
「もちろんやってきました! しかしながら、この地方は土地が痩せていて作物が育ちにくく、しかも若者は『要塞』に動員され、労働力にも事欠く始末! 壊れた建物を直すことすらままなりません!」
「要塞?」
何気なく聞き返すと、村長は地平線の向こうの山と森の方角を指さした。
「あちらに大きな要塞がございます。百年前の大きな内乱の頃に使われ、長らく打ち捨てられていたのですが、先代の領主様が修理させて軍隊を置くようになりました。言うまでもなく、兵士達は周辺の村落から集められた若者です」
「動員ってそういう……道理で若い男が見当たらないと思ったら。でもどうして、今更そんな要塞を?」
「亜人と魔獣の脅威に対抗するためです。要塞よりも西の山と森は、亜人と魔獣の巣窟です。なので、私共も要塞の存在には感謝をしておるのですが……」
村の運営に人手を回せば防衛力が足りなくなる。
防衛力を充実させれば村の運営の人手が足りなくなる。
まさに、あちらを立てればこちらが立たず、という奴だ。
「しかし! 魔導師様さえいらっしゃれば、この地域も息を吹き返すに違いありません! 何卒、何卒……!」
「分かってますって! 分かりましたって! 任せてください!」
しつこく頭を下げまくる村長を宥めながら、とんでもない貧乏くじを引かされてしまったものだと嘆息する。
僕が思い描いていたのは気楽な田舎暮らしだった。
こんなに強烈な期待とプレッシャーを背負った復興事業なんかじゃない。
けれど考えてみれば、僕のことを毛嫌いしていた連中が、僕の望み通りの平穏無事な生活を提供してくれるはずがなかった。
前任者の逃亡も把握していたはずだし、ちょうどいいから厄介事を押し付けてやろうと考えて、左遷先を決めたに違いない。
「……トベラ大臣……さすがに恨むぞ……!」
僕は小声で恨み節を零しながら、遠い空を仰ぐことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「うう……疲れた……」
粗末なベッドに頭から倒れ込む。
結局、僕はマクリア地方に到着した初日から、ボロボロになった建物や水路の修繕に忙殺されることになってしまった。
「……前任者が逃げた理由、分かったかも。これは死ねるわ……せめて魔導師がもう一人……贅沢を言えば二人か三人は……数合わせの魔法使いでもいいから……」
村人から感謝されるのは嬉しいけど、明らかに僕一人でこなせる役目じゃない。
このままじゃ、いつか疲労で死んでしまうんじゃないだろうか。本気で心配になってしまう。
とにかく足りないものが多すぎる。
まず物資が足りない。
交通網が陸運も水運も壊滅的だから、他の村や地域から持ってくるのも一苦労だ。
次に時間が足りない。
冬を越す蓄えのことを考えると、無駄に時間を掛けてダラダラと作業を進めるのは自殺行為だ。
そして何よりも、人手が足りないのが大問題だった。
要塞に動員された連中を呼び戻すわけにはいかないし、かといって老人や子供に無理をさせるわけにもいかない。
このしわ寄せを受けるのは、地域唯一の魔導師である僕一人。
……うん、死ねる。過労死待ったなしだ。
前任者の職務放棄は魔導師失格かもしれないけど、生物としては正解だったのかもしれない。
「お疲れ様です、魔導師様。これ、疲れによく効く薬草のお茶です。こんなものしか出せなくて、ごめんなさい」
クレナイがベッドの横の小さなテーブルにコップを置く。
ちょうど喉が乾いていたので、ベッドから身を起こして有り難くいただくことにする。
……味についてはノーコメント。
一口だけ飲んで渋い顔をしてしまったのは、見なかったことにしてもらいたい。
「それにしても、コハク様! さっきの魔法、本当に凄かったです! 壁の破片がふわーって浮かび上がったと思ったら、パズルみたいにかちかちーってくっついて!」
「僕なんか全然まだまだ。専門の魔導師はもっと効率的にやるよ。たったあれだけで体力使い果たすなんて、修行が足りてない証拠だな」
「またまたぁ。謙遜なんかしなくたっていいんですよ」
嘘偽りのない本音だったのだけれど、クレナイにはマトモに聞き入れてもらえなかった。
何気なく窓の外に視線を向けると、ちょうど外が真っ暗になりつつある頃だった。
「やっぱり、田舎の夜は真っ暗だな」
軽く手を動かして照明魔法を発動させ、空中に小さな光の球体を生成する。
今回は詠唱を省略したので、光球の大きさは指で摘める程度だが、狭い部屋を照らすならこれだけで充分だ。
「都会の夜は明るいんですか?」
「こっちと比べたらね。街のそこら中に街灯があって、夜でも出歩ける程度には明るいんだ」
「そんなに!? 燃料とかどうしてるんです?」
「油とか薪とかは使わないんだよ。魔法で明かりを灯すからね。腕の良い魔法使いなら、一度の詠唱で一区画分の街灯に灯せるんじゃないかな」
王都を離れてまだ二日しか経っていないのに、もう既にあの夜景が懐かしく思えてきてきた。
眠らない街。絢爛たる都市。光の都。
民間の魔法使いが王都を離れたがらないのもよく分かる。
この村を悪く言うつもりはないけれど、客観的に考えて住みやすさは天と地だ。
「……あの、コハク様」
不意に、クレナイが真剣な面持ちで口を開いた。
「私も魔導師に……魔法使いになれませんか? そうすれば、魔導師様の負担も減らせると思うんです」
クレナイの目は本気だ。
もしもそうできれば、どんなに助かることだろう。
半人前の魔法使いが一人加わるだけで、僕の仕事は間違いなく楽になる。
けれど、ハッキリ言って現実的な考えじゃない。
「……手を出してみて」
「えっ? あ、はい」
僕はクレナイが差し出した手を握り、軽く気合を入れて魔力を流し込んだ。
魔力の燐光が僕の腕を介してクレナイの体に行き渡り、そしてあっという間に霧散して消えていく。
「残念だけど……多分、君に魔法は使えないと思う」
「い、今ので分かるんですか!?」
「ある程度はね。魔法を使うためには生まれつきの才能が……いや、正確には『体質』が必要なんだ。こればっかりは、努力や工夫じゃどうにもならない。ああ、でも、こんな体質はない方が当たり前なんだ。落ち込んだりする必要は……」
「やっぱり、都合良くはいかないんですね。村の皆が魔法を使えたら、すぐに復興させられるかもって思ったんですけど」
クレナイの呟きを聞いた瞬間、頭の中を稲妻のような閃きが駆け巡った。
ああ、僕は今まで何をしていたんだ。
こんなことにすら気が付かないなんて、三流にも程がある。
僕は即座にクレナイとの会話を打ち切って、村に来てから放置していた荷物の中身をひっくり返した。
「コハク様! いきなりどうしたんですか!?」
慌てふためくクレナイ。悪いけど説明は後回しだ。現物を見せるのが一番手っ取り早い。
どうして僕がここにいるのかを思い出せ。足りないものは増やせばいい。
魔法省のお偉方も、どうせこんな辺境までは監視していないのだから。
「……よし、こいつを軽く調整してやれば……!」
細長い袋の中から『それ』を引っ張り出す。
先端が尖った杖、というか杭。
頭の方にはスイッチやダイヤルが付いた箱と、透明で黄色い石が取り付けられている。
「杖……ですか?」
クレナイは意味が分からないと言わんばかりに首を傾げる。
期待通りの質問だ。自然と口元が緩んでしまう。
少しくらい自慢したってバチは当たらないだろう。
なにせ、こいつは――
「誰にでも使える魔法の道具さ。魔導師の代わりになる道具だから、さしずめ『魔導器』ってところかな。まだまだ試作品だけどね」