子ども達の人数に驚いていると俺の目の前には行列が出来ていた。

「兄ちゃん! はい!」

 小さな女の子がカップを渡してきた。体は俺よりも小さく七歳ぐらいだろうか。ケトの妹に年齢は近いだろう。

 カップにスープを入れると彼女は走ってどこかへ行った。転ばないか少し心配だ。

 その後も列は途切れることもなく年齢層はバラバラだった。

 俺と同い年もしくは上の人は二割程度で基本は小さい子ばかりだ。

 きっと大きくなると仕事が多い王都では住み込みで働くこともできるらしいからな。

「お疲れ様」

「あっ、お疲れ様です」

 忙しなく動いていたらいつのまにか行列はなくなり、鍋の中身もあと少しになっていた。

「そろそろ俺達も食べようか」

 憩いの宿屋の店主であるマッシュに声をかけられ、四人で食事を摂ることになった。

 お皿にはたっぷり乗った肉多めの野菜炒めとスープ、パンが数個配られた。

「やっぱマッシュさんの料理美味しいですよね」

 マッシュの野菜炒めは味が濃く味噌炒めみたいな味がしていた。

 俺は子ども達が元気に遊んでいるのを見ながら食べていると大人三人は止まっていた。

「どうしま――」

「ケントこれどうやって作ったんだ?」

 急にマッシュに肩を掴まれた俺は戸惑った。何ってただ普通に肉の出汁を使って野菜入れて調味料を加えただけだ。

「何って普通にやっただけですよ?」

「ケントってスキル【料理】だったりするんか?」

「いえ、スキルは【理学療法】ですよ?」

「理学療法?」

 三人は俺のスキルを聞き首を傾げていた。流石に聞いたことないスキルを聞けばわからないだろう。

「あー、所謂外れスキルですね」

「ああ、すまん」

 外れスキルと聞いてすぐに謝ってきた。外れスキルってやはり良い印象を受けないのだろう。

「でもケントくんって水属性魔法を使っていたから魔法関係のスキルなんだよね?」

 多分水治療法のことを言っているのだろう。

「いや、これはただの副産物で基本は医療関係ですよ」

「医療関係?」

 この世界には医療という概念がないためさらに伝わらなかった。

 ただ回復魔法と言うには治療できる範囲も狭く、わかりやすいところでは傷しか治せないため医療関係と呼ぶようにしている。

「外れスキルでも使い方がわかったんで運がよかったです」

 俺が笑顔で話すと大人達はどこかほっとしていた。

「ここにいる子達もどうにかなればよかったのに」

 どこか小さく聞こえる声に孤児院の問題はたくさんあるのだと俺はなんとなく知った。

 食後は後片付けをしようとすると大人達がやるからと俺は子ども達と遊ぶことになった。

 中身は大人だから子ども達と遊べるのか少し心配だ。正直大人と関わっている方が俺としては楽だからな。

「そういえばケントくんは何でスキルの使い方がわかったの?」

 子供達の方へ向かっている時にエイマーからふと話しかけられた。

「理学療法っていうものが何か分かっていたのでそれに関係することをやっていたら使えましたよ」

 アリミアとラルフから俺以外はステータスボードのスワイプが出来ないことを聞いたため、当たり障りがなく一般的に言われていることを伝えることにした。

 以前ガレインからスキルに関しての知識は教えてもらったが、基本スキルは魔法関係でなければ補助的な扱いでしかないらしい。

 例えばスキル【剣士】であれば剣を使う仕事であれば何処かで恩恵を受け、使えば使うほど剣の扱いが他の人より上手になっていく。

 しかし、スキル【魔法使い】や【魔術師】は元々魔法を使うための魔力がないと使えないため、様々な魔法書などを読み魔法に関わることをすることで使えるようになると言われている。


 俺達の医療ポイントが存在するスキルが珍しい分類だが、実際は他のスキルにも存在するのかどうかもわからない。

 ただラルフやガレインの時は勝手にポイントが割り振られていたから、そういう意味では他のスキルもポイント制なのかもしれない。

「ここにも外れスキルを持った子がたくさんいるのよ。結局みんな使えないから自身で仕事を選ぶけど大変らしいわ。ケントくんみたいに使い方が分かれば良かったんだけどね」

 孤児院の子はスキル関係なく仕事に就くことが多いのは外れスキルによる影響らしい。

「そうなんですね。僕がわかる範囲であればお手伝いしますよ」

「ほんと? 少しでもあの子達がスキルを使えれるようになればありがたいわ」

 本当にエイマーは子ども達を大事にしているのだろう。

「あっ、お兄ちゃん!」

 遠くから俺を呼ぶ声がすると気づいた時には後ろから突撃されていた。

「うぉっ!?」

「お兄ちゃん遊ぼう」

 どこかその姿は懐かしく思った。前世の俺にも天真爛漫な妹がいた。

 女の子なのにその辺の男の子より元気な妹を思い出させるような元気な子だ。

「何をして遊ぶ?」

「お兄ちゃんの魔法が見たい!」

「魔法?」

「さっきマーク達がお兄ちゃんは魔法使いだって言ってたからさ」

 きっと魔法も何もないところから水治療法の水球を突然出したため魔法と勘違いしていたのだろう。

「魔法ってこのことかな?」

 水治療法で片手サイズの水球を出した。

「わぁー、本当に魔法だ」

 少女はスキルに興味深々だった。ふと俺はこれで遊べないかと思いつき少女の目の前で破裂させた。

「わぁ!?」

 急に破裂したことで少女は驚いていたが、初めて間近で魔法を見たのか目がキラキラとしていた。

「よーし、早く逃げないとまた冷たくなっちゃうよー」

 また水球を出し水風船のように少女に投げつけた。俺は少女に当たると同時に水球は破裂させた。

 どうやら子ども相手に遊べるか不安だったが問題なかった。

「へへへ、お兄ちゃんこっちだよー」

「こらー待てー!」

 俺は追いかけながら水球を投げていると、いつのまにか子ども達は増え水球鬼ごっこになっていた。

 何度も水球を出すため発動速度を調整する良い練習になりそうだ。

 気づけばあたりは水浸しになり俺はエイマーに怒られていた。

 だが俺のスキルは便利だからな。水治療法の水が消えるように念じると子供達の服は濡れたままだったが水溜まりは消えた。

 本当にどういう仕組みなのかわからない。

 その後も子ども達にせがまれると水球鬼ごっこは続いた。