あれから時折は俺とガレインは王城へ呼ばれるようになった。

 ガレインが貴族街から出ることができないため貴族街へ入る許可を王様から与えられた。

 そんな俺達は今王城の図書館に居る。意外に図書館の出入りはバタバタとしており、特に話していても文句を言われることはなかった。

「ガレインはもう王様にスキルのことを伝えたのか?」

「まだなんだ……」

「でもなんで伝えないんだ?」

「今伝えると多分私の派閥が出来るから、それもめんどくさいのもあるかな」

 ガレインは王の三番目の子供であり、王位継承権はそのままの順番であれば三番目だ。

 兄二人とも親が異なっているのも、才能というスキルを広げるのが目的だ。スキルで人生が決まる異世界らしい常識なんだろう。

 現在の王のスキルは【剣聖】。その力は強力で一人で魔物Aランクの災害級を討伐できるほどらしい。

 その結果自身の世継ぎに受け継がせたいと婚約を申し出る貴族が多く、自身の国だけではなくと近隣他国からも来るほどだった。

 そして優しさと性欲の強さが災いを呼び妻を三人に娶ってしまった。

 冒険者ということは王様もどこか脳筋なんだろうか。

 国を他国に奪われないように正室を自身の国の公爵家、側室を友好国であるベズギット魔法国から妻にしている。

 ガレインの母は元々一緒にパーティーを組んでいた平民らしい。

 派閥は二つに分かれており、正室に付く貴族は自身の身分を上げるもしくは発展させようとする者が第一王子のマルヴェインを支持している。

 また、他国との絆を深め魔法を発展させながら身分を上げたい貴族は第二王子セヴィオンの派閥だ。

「派閥が出来ると何か問題でもあるの?」

「んー、特に私達兄弟の仲は良いから問題はないんだが、それに巻き込まれることになると仲も悪くなるだろう」

「そうなんだね」

「派閥が出来るほどお兄さん達のスキルはすごいのか?」

 ラルフがガレインに聞くと彼の目は輝いていた。

「二人とも凄いんですよ! ヴェン兄は指揮する才能に開花してセヴィ兄は剣と魔法が凄いんだ」

 マルヴェインはスキル【奇才軍師】、セヴィオンはスキル【魔法剣士】だ。

 そもそもこの国クレイウェン王国は剣のスキルで栄えている国のためスキルは剣や騎士関係のものが多いらしい。

 公爵家との子であるマルヴェインは剣と指揮に特化し、ベズギット魔法国との子であるセヴィオンは剣と魔法に特化していた。

 それよりもこの国にも名前があることに驚いている。ケトはあまり裕福な家ではなかったから知識すらないのだ。

「名前から凄そうなスキルだね……」

「それに比べて私は――」

「いやいや、医師も凄いからね!」

 異世界に医師という職業も言葉もないため、何が凄いのかを伝えようにも伝えられなかった。

「あれからスキルは使ってみたの?」

「まだ使ってないんだ。外科の王も治療しようと思って発動しなかったら怖いし、そもそも真剣を使うこともないからね」

 ガレインのスキルを使うためには刃物が必要だった。そのためガレインは真剣でスキルが発動するか確認しようとしていたが、恐怖感があり試せなかったのだ。

「何か手軽に確認出来たらいいんだけどね」

「ん? 別に真剣じゃなくても良いんじゃないの?」

「ん? どういうこと?」

 二人は俺の言っていることが理解できなかったようだ。

「だって外科医って手術でメスを使うから普通に刃物ならナイフでいいんじゃないの?」

「カトラリーでナイフを使うならお肉を食べる時にでもこっそり使ってみればいいんじゃないのかな?」

「そういうことか」

 ガレインは俺の"ナイフ"という言葉に何か気づいたのだろう。

 この世界で刃物と言われたら一般的には真剣なのだ。

 話していると執事が紙に何かを書いてガレインの目の前に差し出した。

「今日は何を用意したんだ?」

「お客様がいらっしゃると聞いたので簡易的に食べれるサンドイッチとシチューを用意しました」

「わかった。もちろん二人も食べて行くよね?」

「ご馳走になります」

 もちろん王城に来る理由の一つは美味しいものが食べれるからだ。

「それではテラスでご用意しています」

 執事は挨拶すると仕事に戻って行った。

「今回はカトラリー無さそうだね」

「そうだね」

「ねぇ! ご飯行こうよ!」

 そんな中ラルフは一人尻尾を大きく振っていた。

「獣人って他の人もこんな感じなのかな?」

「いや、俺もラルフが初めて見た獣人だけど、ラルフってどこかボスと似てるからやっぱり獣人って動物に似てるんじゃないのか?」

「あー、ボスってケントが言ってる狼のことだよね?」

「そうそう」

 ガレインには一度連れてきてと言われているが、流石に狼を城には連れて来れないかった。


――グゥー!


 どこからか大きなお腹の音が聞こえてきた。ラルフに目を向けると涎が垂れそうになっている。

「ご飯! ご飯!」

「くくく、はやく行こうか」

「おん!」

 ラルフの声は図書館にあまりに大きく響き周りの注目を集めていた。俺達は本を片付けテラスに向かった。