俺のお腹はサイレンのように鳴っていた。この体に転生してから一回もまだ食事を口にしてないのだ。

「ほら、小僧これを食べるんじゃ」

　小さいおっさんは茂みに戻ると、葉にいくつかきのみと果物を乗せて戻ってきた。

「わしの食べようと思ってた分じゃ！　小僧が食べ――」

「無理です」

　お腹が減っているはずなのに俺の口は自然と断っていた。

「あん！？」

　おっさんは俺の声を聞いてどこか怒っていた。

「だって、俺がもらったばかりにクロスさんは……」

　ケトの体に転生した俺はどこか意識と年齢に若干引っ張られていた。

「いいんじゃ。また後で取りに行けばいいからのー」

　そう言っておっさんは俺の膝の上に果物を置いた。

「ありがとう」

　葉の上にはアーモンドやナッツ、リンゴみたいな果物が置いてあったが、味は特に前世と変わらず美味しかった。

「それにしても小僧はいつからここに居るんだ？」

「いつからかはわからないけど、記憶がはっきりしてるのは昨日からだから……」

「そうか。体は問題ないのか？　一日いたら既に体に異変が出てくると思うが……」

「んー、特に問題はないですね。スキルのおかげなのかな」

「スキルか？　使い方がわからない奴隷になったって言っておったではないか！」

「使い方がわかったのも昨日だったからさ……」

　俺はは小さいおっさんにスキル【理学療法】について説明した。

「ほぉー、人間にはそんなスキルがあるんだな」

「人間には？」

「妖精や魔物にもスキルはあるぞ？　そうしないと自分の身を守れないからな」

　どうやらスキルは人間特有のものではないらしい。

　小さいおっさん曰く、この世界に存在する生物は基本的にスキルを１つ持っており、人間やエルフなどら種族毎に様々なスキルを覚えているが、妖精や魔物はその個体ごとで同じスキルを持っているらしい。

「じゃあ、おっさんはどういうスキルを持ってるの？」

「わしは固有スキル【コロポックル】というスキルじゃ！」

　どこか得意げな顔をしているが、それよりもスキル名が気になった。

「コロポックル！？」

「なんじゃ、そんなに驚かなくても伝承とかに出てくるじゃろ？」

「いや、まさかのコロポックルとは思わなくて……」

　前世でアニメや小説に出てきたコロポックルは小さな可愛いらしい女の子だった。それが今目の前にいるのはただの小さなおっさんだ。

「ああ、初めて見たから驚いておるんじゃな？　それでお主が言ったスキルのおかげってどういうことなんだ？」

「あー、やってみたらわかるのかな。とりあえずご飯を分けてもらったお礼にちょっと使いますね」

　そう言ってケントは小さいおっさんに手を伸ばした。

「うぉ、小僧。わしを握って何するつもりじゃ！？」

「少し静かにしててください」

　俺は片方の手に小さいおっさんを乗せて、もう片手で背中に慈愛の心を発動させながら指圧した。

「うぉん！？　ああん、そこは……だめ……だめぇー！」

　おっさんのなんとも言えない声は森の中に響いていた。

「……」

　おっさんから出た酒焼けのようなガラガラ声にやらしさを増した声は俺の思考を停止させた。

「はぁ……小僧よ、もう終わりか？」

「はぁ！？」

　俺は声をかけられて現実世界に戻ってきた。

「続きをやるから静かにしててください」

　声が聞きたくない俺は静かにしてもらうようにおっさんに頼んだ。

「んっ、あっ……。はぁ……はぁん！？」

「おい、静かにしろよ！」

　声を出さないように堪えてる声がさらに気持ち悪さを演出していた。

「気持ち良いから黙ろうと思ったが声が勝手に出るんじゃ。はやく続けてくれ！」

　俺はその後も無心で小さいおっさんにマッサージを続けた。