村に入るとまずは宿屋を探した。基本的に村自体はあまり大きくないため、二店舗ほどしかない。

 俺達は冒険者などの団体が泊まる部屋を借りた。

「じゃあ俺達は少し出掛けるけどケントはどうするんだ?」

「少し休憩します」

「そうか。しっかり休めよ」

 マルクスとラルフは宿屋から出て行った。

「ここに戻ってくるとはね……」

 ただぼーっと天井を眺めていた。村から離れてすでに七年の月日が経とうとしている。

「あれから色々あったよな」
 
 部屋で休んでいると扉を叩く音が聞こえた。扉を開けるとそこにはリモンが立っていた。

「ちょっと暇か?」

「ああ、良いですよ」

 リモンは用があったのか部屋まで訪ねてきた。

「あれから足がつりやすくて何か対処する方法はないか?」

 リモンは大怪我をしてからリハビリは必要なかったがその後の異変が少しずつ出てきていた。その一つが足の突っ張り感だ。

 リモンの体を少し触り筋肉の柔軟性をみた。

「んー、ちょっと全体的に体が硬くなってきてるかもしれないですね。少し待っててください」

 一度足を温めるために宿屋の店主に樽がないか確認しに行った。





「これ今日の分です」

「いつもありがとう」

「いえいえ!」

 階段を降りていくと店主と大人びた雰囲気を感じさせる少年が話をしていた。

「すみません、何かお湯を入れれるような物はありませんか? 樽のような--」

「ケト」

 突然冷たい声に名前を呼ばれると心の奥に眠っていたケトの心が震え出していた。

「何で奴隷のお前がこの村にいるんだ?」

「あっ、いや……」

 少年は俺の肩を掴んだ。

「おい! 聞いてるのか!」

「ちょっとこの子はお客さんだよ? うちのお客さんに手を出さないでおくれ」

 なにかを感じた店主は少年を止めた。

「すみません。久しぶりに弟を見たので気になってしまいました。こいつのせいで家はめちゃくちゃになったんでね」

「えっ?」

 あまりの発言に俺は言葉を失った。

「お前は売られて知らないだろうが、あれから母さんはおかしくなって、父さんにずっと媚び売るようになるわ。マニーもお前のせいで何かにビクビクしてるし、お前が外れスキルなんて手に入れるからだ」

「ごめんなさい」

「そもそもお前は俺の弟でもないし、家族でもないから関係ないか! 外れスキルのクソ野朗」
 
 俺に声をかけたのは長男のジョンだった。

「うっ……」

 俺は何も言い返せないでいた。ケトの精神に引っ張られ、いつもの俺なら無視できていたのになぜか聞き流すことができなかった。

「ほう? ケントがクソ野郎ならお前はう○こか? それともその辺の葉っぱか? はははは!」

 突然後ろから肩を組んできたのは俺を待っていたリモンだった。

 中々戻ってこないから心配になり探しに来たところ俺達が話しているところを聞いていたらしい。

「あん!? お前こそ誰だよ!」

「葉っぱに説明は必要か? 俺はこいつと一緒の冒険者だ」
 
「くははは! 笑わせるなよ。こんな外れスキルのクソ野郎が冒険者のはずないだろ。なら証拠は何処なんだよ」

 リモンの話をジョンは信じなかった。

「ケント見せてやれ!」

 俺は言われるがままステータスボードをジョンに開示した。

「名前をケントにしたんだな。親から貰った名前なのに最低だな。ってかEランク冒険者って……外れスキルでもなれるってことは冒険者ってやっぱクズなんだな」

 ジョンは俺だけではなく冒険者のことを嘲笑っていた。

「ほぉ? お前は俺らにも喧嘩を売る気なのか?」

 そんなジョンの後ろにはいつのまにか、マルクスやラルフそしてリモン達のパーティーメンバーも集まっていた。

 冒険者はただでさえ脳筋が多いため、喧嘩っ早い傾向がある。

「うっ……」

「おい? もう1回言ってみろよ? 俺達冒険者がなんだって?」

 マルクスは威圧を放っていた。元Aランク冒険者が放つ威圧は冒険者でもビビるほどだ。

 その威圧をジョンだけに向けられると、そのまま膝から崩れ落ちていた。

「あっ……いやなにも」

 ジョンの足元からは何か異臭がしていた。よく見るとジョンはマルクスの威圧で失禁していた。

「こいつは俺達の家族だ! お前らみたいな人の気持ちも分からんようなやつらと同じにするなよ」

 マルクスはそう言い放つと俺を抱えた。

「えっ?」

 いくら大きくなっても、体格が良いマルクスにとっては軽いらしい。

「ああ、店主汚してすまないな。これ掃除代だ」

 マルクスはカウンターにお金を置くとそのまま俺を抱えて部屋に戻った。