貴族地区に行くとすぐに風呂場に連れていかれた。初めて入る風呂にオラは興奮した。その後は新品の洋服に着替えた。

「父さんこれ見てよ」

「ラルフ似合ってるなー」

「ママ、このヒラヒラのスカートどう?」

「ルウは何を着ても可愛いわよ!」

 オラ達は綺麗な服に身を包み込み領主が待っている部屋に向かった。

「こちらで領主様がお待ちです」

 男性が大きな扉をノックすると声がかかった。

 扉が開いた先には大きなテーブルに沢山の料理が並べられている。

「ああ、君達が今夜の相手か! わざわざ私達の気まぐれに付き合ってくれてありがとう」

「いえいえ、こちらこそお招き頂き感謝しております」

 オラ達は握りこぶしを作り胸元に持っていった。

 この国では貴族などの目上の人にはこのように挨拶する決まりになっている。ここに来る前に案内した男からそう聞いた。

「あらあら貴方達可愛いわね。私はロザリオよ。貴方達の名前は?」

 領主の隣にいた綺麗な女性が近づきオラ達に話しかけてきた。

「オラ……僕はラルフです」

「私はルウです」

「元気な子ですね。今日はいきなり呼び出してごめんなさいね。たくさん食べていってね!」

「では、こちらへどうぞ!」

 男性に勧められた席に座るとそこには今まで見たこともないようなご馳走が並んでいた。

「父さん! 父さん!」

「ははは、ラルフくんと言ったかね? もう待ちきれなさそうだから食べましょうか」

「領主様うちの息子がすみません」

「子供はそれぐらい元気な方がいいですよ」

 領主との食事会が始まった。どれも食べたことないような美味しさにみんなこ笑顔が止まらなかった。

 美味しい料理と楽しい話でいつ間にか二時間ほど経っていた。

「じゃあ今日はこの辺でお開きにしましょうか」

「今日はこんな私達を誘って頂きありがとうございました。これからも領主様達に尽くしていけるよう家族で頑張りたいと思います」

「ああ、楽しみにしてるよ!」

 領主と妻のロザリオはそんなオラ達を見て楽しげに微笑んでいた。

「馬車乗り場までお送りしますわ」

 領主とロザリオが屋敷の門近くまで見送ると突然事件は起こった

「きゃー!」
 突如呪文のような声が聞こえると同時に母の叫び声が聞こえた。

 母はいつのまにか火だるまになっていた。それを振り払おうと父が近づくと父の背中にも剣が刺さっている。

 そのまま火は父はにも燃え移りは二人とも倒れた。

「母さん! 父さん!」

 突然のことで頭が真っ白になった。

「ははは、やっと今日のメインにありつけたな! なぁ、ロザリオ」

「私の火属性魔法はやっぱ夜に見るのに限るわね」

「なんでこんなことするんだ!」

 必死に火を消そうと思っても火は強くなるばかりだ。

「本当にこいつら馬鹿ばかりだな」

 気づいた頃には領主の足がオラのお腹にあった。オラは遠くへ飛ばされて木に背をぶつけると勢いが止まった。

「ははは、さっきも私たちに尽くしたいと言ってきたじゃないか!」

「ねぇ? あの可愛い子の叫び声聞きたくない?」
 
「うええぇーーん!」

 ロザリオは少しずつ近づきルウの顔を掴み微笑んだ。

「ルウ逃げろ!」

「いやぁー!」

 呪文を唱え終えるとルウの顔面から火が燃え移った。

 すぐにその火は体までいき、悶えていたがそのまま力尽きて倒れていった。

「ルウー!!」

「あとはあの小僧だけか」

「もう私は満足だわ。手も火傷したから回復ポーションをかけて寝るわ」

「おお、愛するロザリオよ! おやすみ。愛の巣へすぐに向かうから楽しみにしておいてくれ」

「あら、今日は興奮が冷めないのね。準備して待っているわ」

 ロザリオは屋敷に戻って行った。ただその後ろ姿を睨むしかできなかった。

「ひひひ! 俺も早く終わらしてロザリオとの楽しい夜を過ごそうじゃないか」

「母さん……父さん……ルウ……」

 オラには逃げる体力も残っていなかった。

「ははは、私としてはもっと逃げ回ってくれると楽しかったが興醒めだな。この興奮はロザリオしか納めてくれないな」

 領主はオラに向かって大きく剣を振り上げた。

 その時どこからか光が見えた。ここに居ては行けないと咄嗟に感じるとオラは転がった。

 すると領主の剣は土の上に刺さっていた。

「くそやろー! 殺してやる! 殺してやる!」

 剣が抜ける前にオラは光に向かって走った。そこには小さな小屋があった。

 獣人はすばしっこく運動能力も高い。そのため領主から逃げきれたのだ。

 光はどこから来ているのか気になったが奥の草木の間を見ると人が一人通れるサイズの小さな隙間が壁に空いていた。

「ここから行けば……」
 
「殺してやる! 殺してやる!」

 声がすぐ近くまで迫ってきていた。 急いで隙間を通り屋敷外に逃げたした。

 その後小屋の方からは少女の叫び声が聞こえていた。

 オラは走り続けるといつのまにか貧困地区にある自分の家の前いた。

「母さん……父さん……ルウ……ただいま」

「おかえりラルフ!」
「ご飯が出来てるわよ!」
「ラル兄遊ぼう!」

 そこにはいつもは返ってくる声は無く静まりかえっていた。