三人は王都へ出発する準備を進めていた。家をしっかり掃除し、各々受けていた依頼を全て終えて依頼者にはお礼を伝えた。

 今回は乗り合い馬車で、トライン街発の王都着行きの馬車に乗る予定だ。途中村などを経由して、人を乗せていく予定になっている。

 俺はキーランドにリハビリ内容を伝え、今後離れても良いようにとリハビリを組んでいる。最近は以前のように足関節の不安定性も減ってきている。

 それでもまだリハビリをやりたいのか落ち込んでいたが説得すれば納得していた。

 納得していなかったのは他に二名いた。

「マルクスさん、私をおいていかないでくださいよ。私にあんなことしておいて」

 カレンはマルクスにくっつき泣いていた。俺とラルフはまじまじとマルクスの顔を見た。

「俺はまだ何もしていないぞ!」

「まだ……?」

「いや、それはだな……」

「まだってことはこれから何かあるんですか? ねぇ?」

「……」

 俺から言えば早くくっついて欲しいものだ。正直おっさんがウジウジしているのも見ててなんとも言えない。

「でも、王都って美人がたくさんいるって言うじゃないですか……」

「はあー、カレン大丈夫だ。強くなったら戻ってくる。その時まで待っといてくれ」

「えっ? 今カレンって……」

「おい、そこか?」

「えっ? 嘘!? えっ?」

「ははは、カレンやったな! それまでに俺達も強くなってマルクスさんを驚かしてやろうぜ!」

 急な展開にカレンは頭が真っ白になっているのだろう。同じパーティーのリモンはそんなカレンの肩を優しく叩いていた。

 その時のマルクスの顔を見ると面白い。早く付き合えば良いのに……。

「私ちゃんと待ってます。その間に私達も追いつくので覚えておいてくださいね」

「ああ」

 少しマルクスは照れていた。

 一層こちらの方も難渋していた。俺にはやつがいつも付き纏うのだ。

「なんでケントキュンも行くのよ! 私を置いてくって言うの……」

「はい! 置いて行きます!」

 容赦なく俺は返事をした。

「酷いわ! 別れが悲しいと思って私の胸を貸そうと思ったのに」

 今日はやけに胸元が見える服装を着ていると思ったら別れを惜しむ俺に胸を貸すためだった。

 べつに別れを惜しむことは特にない。気がかりなのはどちらかといえばキーランドだけだ。

「いやいや、悲しくても遠慮しておきます」

「別れなのよ。ケントキュン……」

 マリリンは地面を見つめ、悲しそうに俺をチラチラ見ていた。

「じゃあ、皆さん行ってきます」

 みんなに挨拶をするとマリリンは黙っていられなかった。

「おいコラ、ケント!」

「はっ、はい」

 マリリンの本気の威圧につい姿勢を正した。

「気をつけて行けよ」

「えっ?」

「だから気をつけろって言ってんだろ!」

 なんやかんやで俺のことを心配しているのだろう。

「ありがとうございます」

 仕方ないととびっきりの笑顔を向けると、マリリンは飛びついていきた。飛びっきりの大胸筋プレスを……。

 だけど普段より胸圧は弱かった。

「マルクスを頼むぞ」

「はい」

「これを王都のギルドマスターに頼む。ひょっとしたら巻き込まれるかも知れないが……」

「分かってますよ」

 馬車に乗り込んだ俺達は王都に向けて出発した。





「んで、なんでカレンが居るんだ?」

「だって今回の護衛パーティー私達だもん」
 
 馬車に乗ると何故かカレン達が乗っていた。

「……」

 マルクスはさっきのことを思い出し顔を赤く染めていた。

「マルクスさん……面白かったですよ!」

「おい、お前ひょっとして……」

「もちろん知ってましたよ?」

「ラルフは?」

「もちろん!」

「お前らー!」

 王都に向けて初の長距離移動だが出発早々相変わらず元気だった。