その後も鉱山にクロスは現れなかった。なぜ居ないのか周りに確認しても誰も教えてもらえず俺は奴隷商に戻った。

 俺が戻ろうとすると若く、煌びやかな服を着た男女が馬車から降りてきていた。

「おい、小僧歩け!」

 俺はつい立ち止まってしまった。

「あっ、はい」

 しかし俺はどこかその二人に目が離せなかった。

 女性は金色の髪に赤のドレスを身につけ、男性もスタイルが良く、金の髪に切れ長の青い目をしていた。

「あの人らはこの地区の領主様だ。お前らが見ていいもんじゃない」

 俺は監視役に押されるように奴隷商に戻されてた。





 俺は檻の中で座っていると突然声が聞こえてきた。

「こちらが犯罪奴隷です」

 声がする方に目を向けるとそこにはさっき奴隷商の前にいた貴族がいた。

「この歳で犯罪を犯した子もいるのね。汚らわしいわ」

「はは、ロザリオが言うか」

「あなたったら……冗談よ」

 そんな会話を俺の前でしていた。貴族二人が俺を見る目は明らかにあの時の家族と同じ目をしていた。

「領主様目的の人は――」

「ああ、ちょうどみつけた!」

「ふふ、ほんと変わらない姿だわ」

 二人が止まった先は俺の第二の父親でもあるクロスの前だった。

「お前ら……」

「おい、奴隷の分際で俺様にそんな態度を取るな」

 男性は剣を抜刀するとそのままクロスに剣を刺していた。

「ぐわぁ!?」

「えっ? クロスさんの声……?」

 声からクロスだと判断した俺だったが、何もできない感情から檻を掴み必死にクロスがいる方を見つめた。

「領主様おやめください。犯罪奴隷でも生きています」

 奴隷商人が駆け寄ろうとするが執事に止められていた。

「あはは、いい気味だわね。お前なんか死んでしまえ! あなたのせいであの子のスキルが【剣士】なのよ」

 女性はクロスに怒鳴っていた。

「ロザリオそんなに怒るなよ。たまたまこいつの種が残っていた可能性があっても僕は何も気にしないぞ」

「でも、私が嫌なのよ。こんな男の種が私のお腹の中に残っていたと思っただけで反吐が出るわ!」

「ふふ、まぁ私もこいつが気に入らないからな。スキル【騎士】の私に歯向かう愚か者だったからな」

 そう言いながら男はまたクロスに向かって剣を刺した。

「あああぁぁ!!」

 奴隷商の中はクロスの叫び声が響いていた。

「ははは、お前の自動回復も全然効力がなくなってるな」

「ふふふ、奴隷商じゃまともな食事も取れないから回復量が間に合わないのよ。あー、いい気味だわね」


「回復量……? 食事?」

 俺はふと昼間のことを思い出していた。





「あはは、つまづいただけだから気にするな! 最近ふらふらすることがあってな!」

「大丈夫ですか?」

「ああ、最近自動回復の性能が落ちたのかな?」





 俺は心から震えていた。自分のせいでクロスの回復が間に合わなくなったんだと理解した。

「あはは、いい気味だわ! これであなたとの呪縛は無くなるわ!」

「ふふふ、今日のロザリオは最高だね。スキル【剣士】なんて【騎士】からでも産まれて来るのにな」

「これでいいのよ。やっと解放されるわ」

「あはは、浮気者が言う言葉かよ。さすが俺の愛する女神様!」

「ふふふ、ありがとう王子様!」

 二人はクロスの檻の前で熱いキスをしていた。

 その足元には二人を呪うかのごとくクロスの赤い血が流れ落ちていた。

「奴隷商人よ、汚してすまないな。これはこいつの金と掃除代も含めて入っている」

 男は奴隷商にお金を投げると帰って行った。

「俺がご飯を食べたからだ」

 俺はは何もできない自分に悔しく、檻を掴む手からは血が出ていた。

「あら、さっきの汚らわしい子ね」

「お前がクロスさんを……」

「クロスさん? あはは、あいつの名前を知ってるのね!」

「クロスさんがお前らに何をしたって言うんだ!」

「ふふふ、あなたも死にたいのかしらね?」

「ロザリオ、今日はその辺にしなさい。アリスが待ってるぞ」

「まぁ、そうね。こんなゴミクズの相手をしていたら時間の問題だわ!」

 そう言うとロザリオは一人で奴隷商から出て行った。

「あの女め……」

 俺はロザリオを睨んでいると男から声をかけられた。

「おい、小僧! これ以上ロザリオに何かしたらお前の命なんてすぐに奪ってやる」

 男は檻を掴んでいる俺の手を軽く斬りつけると去って行った。

「チクショー! チクショー! 絶対許さない」

 俺はこの時クロスのために領主へ復讐をしようと心に決めたのだった。