最終日の仕事を終えると、依頼報告書を貰うために待合室で待っていた。

 アスクレは依頼達成報告書を持ち診療室から出てきた。

「ケントくんありがとう。これが今週の依頼達成報告書ね」

 アスクレに依頼達成報告書をもらった。今回の依頼は一週間と、普通の依頼より長めではあったがあっという間に終わった。

「こちらこそありがとうございます」

「こちらも助かりました。それでまた頼みがあるんだけどいいかな?」

 改めてアスクレは俺に頼み事をしようとしていた。

「出来る範囲なら良いですが……」

 どこか治療院に緊張が走っていた。自分たちしかいない治療院は窓から風が入ってくる音だけが聞こえている。

「僕にそのマッサージをしてくれないか? 実は前からラルフくんの話を聞いて気になってたんだ」

 ラルフがアスクレにマルクスにやっているリハビリを話していた。

 実際アスクレ自体が常に座って仕事をしているため腰痛が酷かった。

 俺は待合室にある椅子を並べ、簡易的にベッドを作ることにした。

「ここにうつ伏せで寝てもらってもいですか?」

 言われた通りにうつ伏せになると徒手によるマッサージが始めた。

「あー、いいね。あー、そこそこ気持ちいいん……痛った!?」

「あー、脊柱起立筋が硬いですね。ずっと座って診察しているからですかね?」

「ああ、やっぱそうなんか。ケントくんってほんとに凄いね! どこでそんな知識を得たの?」

 いつのまにか俺の手は止まっていた。転生したことは新しい親であるロニー達も含め、誰にも話していない。

「嫌なら言わなくてもいいよ。でも、こんな力があるのに冒険者は勿体無いね。新しい治療院でも作れば良いのに……」
 
「冒険者は僕の夢なんです。ずっと冒険者になって広い世界を見たかったんです」

 ケトの夢だった冒険者は、今の俺になってもそのまま夢だと思っている。

 一度は本当に治療院で働こうと思ったが、どこかでそれを拒否していたのだ。

 お金のためになった冒険者だったが、今では異世界だからこそ様々な文化に触れたい。

「そっかー。大変だと思うけど頑張ってね! もし、なんかあったらまたここの治療院を頼ってくれ」

「ありがとうございます」

 冒険者ではない街の人と関わり関係を作ることは何もない俺にとってはいいことだ。

「あー、それにしてもいいね」

 その後もしばらくマッサージをした。

 アスクレは診察室に戻り手紙を持ってきた。

「これを冒険者ギルドに渡してもらってもいいかな?」

「手紙ですか?」

「きっとケントくんの助けにもなると思うんだ」

「わかりました」

 アスクレから頼まれた手紙と依頼達成報告書を鞄に入れた。

「あー、それにしても体がスッキリするね。 また今度体操教室の依頼を出しておくからその時はお願いね」

「一週間お世話になりました」

「こちらこそありがとう。また、次回もよろしくね」

 こうして治療院での長い依頼は終えた。