俺は自宅に戻ると椅子には落ち込んだラルフが座っていた。

「ラルフ大丈夫か？」

「やっぱり俺一人じゃダメだった」

　今までとは行ったことないところに依頼を受けに行ったが、ラルフ一人ではやはり帰らされたらしい。

　プラナスも小さい子どもに酷いことをやらせると思ったが、俺が健斗として生きた年数があるからそう思うのだろう。

　これも更生させる手段の一つと言われれば俺も従うしかなかった。

「また明日からは俺も一緒に行けるから依頼頑張ろうな！」

「ありがとう！　やっぱりまだまだケントがいないとだめだな」

　ラルフは次第に気を取り直していたが、ある意味依存的になる可能性があった。ただ、異世界は中学生にもなってない子に厳しい世界だ。

「ケントは今日何をしに行ってたんだ？」

「実はスキルの使い方がさらにわかってね」

　俺は水治療法を発動させるとラルフは目を輝かしていた。

「おー！　すげー！」

「それでラルフにお願いがあるんだけど何か大きな容器とかはないかな？」

「昔水を溜めてたやつなら裏にあるぞ？」

　ラルフに連れられると家の裏には大きな樽が置いてあった。

「これって使ってもいいか？」

「別にいいけど何をやるんだ？」

「楽しみに待っててね」

　中に溜まっていた汚い水を捨てると樽に水治療法を発動させた。正確にいうと中を掃除するようにイメージしたのだ。

　そして水治療法の発動を解除すると汚くなった水は一瞬で消えて中は綺麗になっていた。

「おー、簡単に消えた！　これは魔法なのか？」

「俺にもいまいちわからないけど魔法に近い何かなんだろうね」

　俺にも正確にはわからないが魔法に似た存在なのは確かだ。

　次はドラム缶風呂をイメージし発動すると次第に水の塊は中からぶくぶくと気泡が出現し徐々に気泡は消えた。水が少しずつ沸騰している証拠だろう。

　そのまま樽の中に入れると俺が異世界に来てずっと願っていたものが完成した。

「ちゃんとお風呂になってる」

　中に手を触れるとしっかり温かいお湯になっていた。

「えっ、お風呂って貴族達しか入らないお風呂か？」

　一般的に大事な飲み水を温めて、お湯に浸かるという考えはお金がある貴族達の豪遊らしい。

　貴族以外は水浴びか、布で体を拭く程度で俺の記憶でも風呂に入ったことはなかった。

　貧困地区の人達にとっては飲み水は大事な生活必需品だ。

　そのため清拭もあまり出来ず、ラルフの体臭も若干きつく、商売関係の依頼には致命傷でもあった。

　そんな中ふとラルフを元気にさせるために考えたことだが、当の本人もお風呂という言葉に喜んでいた。
　
「とりあえず今日の疲れは今日中解さないとね」
　
「お言葉に甘えてお風呂に入ろうかな」

　ラルフはすぐに家に戻ると体を拭く布を準備してゆっくりお風呂の中に浸かった。

「あぁー」

　どこの世界も出る声は一緒なんだろう。

「じゃあご飯の準備をしているから気をつけて出てきてね」

　こうして水治療法による樽風呂が導入された。ちなみにラルフが入った後のお湯は真っ黒になっていた。