エッセン町とトライン街は直線距離だと遠くはないが山が邪魔をしているため、森の近くを遠回りして行く必要がある。

 俺は森の中で川を目印に生活をしていたが、森を縁から縁へ抜けるのには歩いて五日程度はかかる。

 しかし馬車を使うことで半分の二日で着く予定だ。森の側を移動するため動物や魔物が出てくるのが問題になってくる。

 道中は特に何もなく無事にトライン街に着き、今は門の前で並んでいる。

「大丈夫か?」

 トライン街の石壁を見ると体が震え出していた。

「大丈夫……です」

 必死に手を握りこむと次は俺達の番だった。

「Bランク冒険者のマルクスとEランク冒険者のケントです」

 マルクスがステータスボードを門番に向け提示した。

「おい、小僧お前のは?」

「ケント大丈夫だ」

 マルクスは俺の肩を掴んだ。すると自然と震えは収まり、俺はステータスを提示した。

「ああ、マルクスとケントだな。トライン街にようこそ!」

 あれだけ震えていたのに実際は呆気なく終わり、問題なくトライン街の門を通った。

 まずはこれからの活動場となる宿を探すことが先だ。しかし宿に入るには問題があった。

「すまないね。うちは動物禁止だしその子は狼だろ? 危なくなくても周りからとやかく言う人いるからね」

「そんな物騒な動物を街に入れるな」
「トライン街を汚す気が!」
「病気を流行らす気かしら? 私らの宿に入れないで頂戴!」

 言い方はそれぞれであったが、狼のボスがいることで断る宿が多かった。

 そして、街全体がエッセン町と違い閉鎖的な街だ。

「マルクスさんすみません」

「いや、ケントが気にすることじゃねよ」

 それからも宿を探し出していると、いつのまにか人通りが少なく貧困地区についた。

 トライン街は主に四つに分けられており、一番大きな貴族地区、次に大きな商店地区、その次は生産および一般地区、最後に貧困地区となっている。

 貴族地区は主に男爵や子爵を中心に集まっている。その中でも領主のみ伯爵で絶対的な存在だ。

「ちょっとここから離れようか」

 マルクスは何かを警戒したのか向きを変えると振り向き様にフードを被った子供にぶつかった。

「痛っ!?」

「すみません」

「いえ、こちらこそすみません」

 子どもは用事があるのか走った。しかし、狼のボスは少年が怪しいと感じたのか走っていき押し倒していた。

「なんだこの狼! おいコラ! やめろ!」

 今までそんなことを一度もしなかったボスが起こした行動だ。だからこそ何かあるんだと確信していた。

「ボスどうした?」

 ケントが詰め寄ると子供はもっと暴れてボスを押し退かそうとしている。

 そんな様子を見ていたマルクスは俺にポケットの中身を確認させた。そこには入っていたはずの財布がなくなっていた。

「あれ?」

「おい、お前金を盗んだな」

 すぐにマルクスは子ども上に馬乗りになった。

「チッ! 殺すなら早く殺せ! 俺らはいらない子だ!」

 子どもは暴れるのをやめその場で叫んでいた。

「なら殺してやろうか?」

 貧困地区ということもあり、財布を返すのであれば許すつもりだ。

「ひぃ!」

 子どもはマルクスの威圧に震えていた。

「ちょっとマルクスさんストップ!」

 それを止めたのはケントだった。

「おい、早く俺を殺せ。頼むから……殺してくれよ」

 子どもは手で目を擦っていると、被っていたフードが取れた。

 そこにはグレーと銀色を足して割ったような髪色に、ボスのような耳が付いていた。

 獣人を間近に見るのは初めてだった。そして彼は泣いていた。

「狼の獣人か」

「ボスひょっとして……」

 ボスは激しく尻尾を振ってお座りをしている。ただ自分と似た種族である、狼の獣人と遊びたかっただけであった。

「んで、どうするんだ?」

「えーっと、まず確認してみますね。君は財布を取ったんですか?」

「取ったよ。これでいいならはよ殺せ!」

 次々に質問をするがすぐに"殺せ"と発言していた。

 見た目も獣人のため少し大きいぐらいの少年が死を求めているのを不思議に感じた。

「君ってどこに住んでるの?」

「ここの奥で一人で暮らしている」

「僕達今日トライン街に来たばかりなんだけど、どこの宿でもボスがいるからって断られてるんだ。だからお金を渡すから泊めさせてくれない?」

 何かあるのではないかと思ったが、お金を盗むぐらいだからよっぽど貧乏だと予測した。お金を渡す条件で寝泊まりする場所を求めた。

「おい、盗みを働いたやつに流石にそれは……」

「君はなんで一人で住んでるの? 自分の家があるぐらいだから誰か家族はいたでしょ?」
 
「みんな殺されたんだ」

「誰に?」

「この街の領主にだよ。あいつらは俺から何もかも奪い取ったんだ」

 領主が住んでいるトライン街だが、あの領主であれば貧困地区をすぐに消そうとする。

 その貧困地区が残っているなら何かあるのだろう。

 時折炊き出しなどの支給はあるものの特に改善しようとする動きはないらしい。

「俺の家族をあいつは持っていっ――」

 獣人の少年は話している途中でそのまま力尽きて倒れてしまった。