戦闘訓練からさらに二ヶ月経つが、相変わらずマルクスのリハビリを行なっていた。

 治療を始めてから三ヶ月も経っているため、筋力も体力も戻りほぼ元の体を取り戻しつつある。

「そろそろ冒険者の活動を始めるんですか?」

「トライン街の方が依頼が多いから少しここを離れるつもりだ」

 それを聞いて笑みが止まらなかった。やっとあのハードな戦闘訓練という名のいじめをされなくて済むのだ。

 マルクスの戦闘訓練は毎日続いた。ハンマーでのケント叩きは無くなったが、走り込みと筋力訓練はハードだった。

 もちろんメニューはマルクスの経験で組まれており、少しでも逃げ出そうとするとハンマーを持って追いかけられる。だからやるしかなかったのだ。

「マルクスさんが居なくなると寂しいですね」

 俺は寂しそうな演技をして伝えた。きっと賞を取れるほどの演技だろう。

「ああ、そう言うと思ったからケントも連れて行くぞ」

「えっ?」

 まさか演技の出来が良すぎて本当に寂しいと思われたのだろうか。少し前の自分を攻めたいぐらいだ。

「すでにロニーとアニーには話してあるぞ」

 しかもしっかりと外堀を埋めていた。

「ちょっと待って……えっ?」

「はは、そんなに嬉しいか。 これからもよろしくな」

 うつ伏せの状態であるマルクスからは俺の顔が見えていない。だから嬉しくて喜んでいると勘違いしているのだろう。

 強引なマルクスによって俺もトライン街についていくことが決まった。

 ただし行くには問題があった。俺がトライン街の奴隷商に居たことだ。

 あれからだいぶ時間が経っており、全体的に体は成長したが奴隷商に見つかったら何をされるかわからない。

「マルクスさん、僕あまりトライン街には行きたく無いんです」

 思っていることをマルクスにぶつけてみた。

「その気持ちはわからなくはない。ただ、それでずっと離れていてもいいのか? 体だけ大きくなっても心は小さいままでいいのか?」

 マルクスの言葉に言い返せなかった。言っていることは間違いではないが"また奴隷に戻ったら“、"この生活が夢だったんじゃないか"と考えてしまう。

「勝手にロニー達に言ったが決めるのはケント自身だ。幸いなのがケントは死んだ扱いで森に放置されていたってことは奴隷商のスキル【人物使い】のスキル外になっているはずだ」

 奴隷商もスキル【人物使い】を使用するのに、人数制限やスキル使用による魔力が使われている。

 そのためいらないと判断された場合、人数制限の確保のためにスキルは切られることが一般的だった。

「わかりました……。考えてみます」
 そう言ってその日のマルクスとのリハビリを終えた。