気づけば外は暗くなり門番もランプを持ち立っていた。

「おい、お前ら止まれ!」

 俺は声に反応してその場で立ち止まった。ランプを前に向けると顔の確認をしていた。
俺は最後の力を振り絞ってエッセン町の外壁まで戻って来ていた。

「おい、ケントどうしたんだ!」

 今日の門番は夜勤だと事前に聞いていたロニーだった。

「ロニーさんただいま」

「血だらけじゃないか。しかもこの子と狼は――」

 ロニーは俺を自身の方へ引っ張ると剣を抜きボスの方へ剣を向け警戒していた。

「ボスは仲間です」

「何を言ってるんだ狼だぞ! 突然何をするのかわからんやつだし、ケントも血だらけじゃないか」

 ロニーは純粋に警戒をしているのだろう。

「大丈夫です。僕を信じてください」

 俺の必死な頼み込みにロニーは剣を戻しボスに近づいて行った。

「ひょっとしてお前がケントを守ってくれたのか?」

「ガゥ!」

 ロニーの言葉を理解してかボスは返事をしていた。

「そうか、ありがとな」

 ロニーはボスの頭を撫でると体を伏せ少女をロニーの方へ転がした。

 少女を受け取ったと分かるとボスは立ち上がりそのまま森の方へ向かって走って行った。

「ボスありがとうー!!」

 俺はそんなボスの後ろ姿を見て叫んだ。

「おい、お前らケントを冒険者ギルドに預けて来るから見張りを頼む」

「早く傷の確認も含めて行った方がいい。あそこなら回復ポーションがあるからな」

 ロニーはもう一人の門番に声をかけるとすぐに冒険者ギルドに向かった。





「ギルドマスターすまん!」

 ロニーは冒険者ギルドに入るとすぐに大声でギルドマスターを呼んだ。

「おお、ロニーか久しい……おい、担いでるのはケントか!」

「ああ、今さっき帰って来てからケントは血だらけだ。こっちの少女は気絶してている」

「ケントは大丈夫そうだな。お前の肩でバタバタしてるしな」

 俺はギルドマスターに手を振ると安心したのか笑っていた。

 俺は自分で歩くつもりだったがロニーが心配して担いで来たため俺はそのまま運ばれていた。

「スターチス、念のために回復ポーションを持って来い」

 ギルドマスターはスターチスに指示をするとロニーはケントを床に下ろした。

「それでケントは大丈夫なんか?」

「僕は大丈夫ですよ! 魔物に襲われ――」

「なんだと!」

 俺の言葉にロニーとギルドマスターは驚いていた。

「森の手前まで魔物が出て来たのか! スターチス冒険者に依頼を出してくれ」

「ああ、俺の方は門番に伝えて来る!」

 魔物に襲われたと聞いた二人は俺が森の手前で襲われたと勘違いしていた。

「いや……森の奥に入って行ってしま――」

「はぁん!?」
「おん!?」

 ギルドマスターとロニーに問い詰められ、ただでさえ見た目が怖い二人は無自覚で威圧を放っていた。

 冒険者ギルド内では身震いする者が出ていた。

「ごめんなさい。でもこの子の叫び声が聞こえたから」

「……」

 ギルド内は妙な静けさに包まれていた。

「それでこそ冒険者だ!」
「男として立派だぞ!」

 二人は俺の肩を組み頭を撫でてきた。

「それでなんでこうなったのか細かく教えてくれ!」

「分かりました」

 俺は森で採取してからエッセン町に帰って来たところまでを細かく話した。

 その際に自分は傷一つなく少女は初めから傷ついていたこと。

 そして、自分は短剣を握っただけで何も出来なかったことを話した。

「僕は何も出来なかったです。ボス達が死ぬ気で戦ってるのに……」

 森での出来事を思い出す度に自分の不甲斐なさに俺は涙が止まらなかった。

「頑張ったなケント」

 そんな俺の姿を見てロニーは笑っていた。

「ケントが無事で良かった。これからは依頼の時間を少し減らして護衛術でも教えよう」

 ギルドマスターは今後の安全も考え、俺自身に強くなってもらうよう鍛えることに決めていた。

「んっ……ここは……?」

 そんな中少女が少しずつ目を覚ました。

「おい、大丈夫か?」

 ギルドマスターが声をかけると少女はちゃんと起きたのかまた怯えだした。

「キャー! 魔物……魔物だわ!」

 少女はすぐに向きを変え逃げようとしたがすぐにギルドマスターは捕まえた。

「私を食べても美味しくないわ!」

 少女がそう叫ぶとギルド内は騒ついていた。

「ギルマスは幼女好きだったんだな」

「あんな体格差で嬢ちゃん壊れちまうぜ」

 その声を聞いて少女はさらに叫び出した。

「いやー、ケダモノ離せ!」

 少女はそれでも叫び続けていたため、ギルドマスターの眉がピクピクと動いていた。

「ほぅ……そんなに離して欲しければ崖の上からの方が良いかな?」

「うぇ!?」

「それとも魔物の中へ放り投げるかどちらがいいか?」

「うっ……うぇーん」

 ギルドマスターの圧に少女は失禁しながら泣いてしまった。

「ああ、ギルマスやらかしたな」

「可哀想に……」

「おい、お前ら?」

 ギルドマスターは冒険者の方へ振り向くとさっきまで話していた冒険者達は皆立ち上がった。

「あっ、用事があったんだ!」

「わしも飯の時間だしな」

 一気に冒険者達は帰ろうと扉に向かおうとするが伝説の魔物こドラゴンのような威圧を放っていた。

 今まで感じたこともない威圧に俺も全身電気が走った気がした。

「お前らわかっているのか?」

「ひぃ!?」

「やめるんじゃ……」

「全員外に出ろー!」

 ギルドマスターが叫ぶと同時に冒険者数人はその場で意識を失っていた。

「はぁー、こんな奴よりケントのほうがよっぽど勇気があるわ」

 声がする方に目を向けるとそこにはスターチスが回復ポーションを持って立っていた。

「あっ、そのスターチスちゃん……。これはわけがあってな……」

 スターチスは回復ポーションをコンコンと叩きながらギルドマスターに近づいてきた。

「ただでさえ後処理が大変な時に子供を喚き散らかせ、ギルド内に邪魔なやつらを増やして何してくれてんねん!」

「あああ……ごめんなさい!」

 そんなスターチスを見てギルドマスターはジャンピング土下座をしていた。
 
「いい加減後先考えずに威圧を放つのはやめろ! カス! ボケ!」

 スターチスは回復ポーションをギルドマスターに叩きつけていた。スターチスの力が強いのかギルドマスターの頭が硬いのか瓶は豪快に割れていた。

 俺は魔物よりも怖い存在が近場にいたことを再認識するのだった。