「アオーン!!」

 少し走ると遠吠えが聞こえていた。そこまで俺は必死に走ると目の前には少女を囲むように緑の少年が囲んでいた。

 少女は傷だらけではあったものの怯えるようにしゃがみ込んでいた。

「あやつが魔物じゃ! あいつらは知能は低いが力は強いから気をつけるのじゃ」

 どうやらファンタジーの代表であるゴブリンだと見た瞬間に感じた!

 だって少女を見る顔が頬が緩みきった変態なやつにそっくりだ。

「アオーン!!」

 ボスが雄叫びをあげるとゴブリン達は狼の方に意識が向いた。

 すると標的を狼に変えたのかこっちに向かってきた。その瞬間ゴブリン達に狼が噛みついた。

「今のうちにあの子を引っ張って来るんじゃ」

 俺はコロポに言われた通りに少女の元へ駆け寄ると、少女は恐怖のあまり意識を失っていた。

「ゲッゲゲゲ!」

 音がする方に目を向けると狼から逃げ出したゴブリンが俺の目の前に来ていた。

 咄嗟に俺は腰につけていた剣帯から短剣を取り出してゴブリンに向けた。

「やらなきゃ殺される」

 俺は自分に言い聞かせた。だが前世も現世でも刃物を向けたことはなかった。そのため俺の手は震えていた。

「ガゥ! 」

 ボスがそれに気づき走ってきた。ボスは大きく飛びこむとゴブリンに向かって大きく口を開けた。

「ゲフ?」

 ゴブリンはそれに気づき振り向いた。しかし、足元が不安定だったのか咄嗟に避けたゴブリンはそのままふらつき俺の元へ倒れていった。

「えっ?」

 いつのまにか俺の持っていた短剣がゴブリンの腹に刺さり、次第に俺の手はゴブリンの血で染まっていた。

 血でひんやりしているのにどこか体が熱く感じた。

「やぁ……はぁ……はぁ……」

 俺は初めて何かを刺した感覚に息苦しさと吐き気に襲われていた。

「ケント落ち着くのじゃ!」

 そんな俺をコロポが落ち着かせようと声をかけているがまだ息苦しかった。

 次第に周囲の音は収まりボスを中心に狼達が俺の元へ駆け寄り体を擦りつけていた。

「はぁ……はぁ……みんなありがとう」

 俺はボスの体を自身の身体を預けると次第に落ち着きだし吐き気は治まった。

「クゥーン?」

「はは、心配かけてごめんね」

「ガゥ!」

「あはは、ボス怪我は?」

 俺は周りを見渡すと倒れたゴブリンの近くにも血だらけで倒れた狼が数匹いた。

「おい、大丈夫か!?」

 俺は狼近寄るがわずかに息をしているだけでゴブリンと戦ってできた傷口は深かった。

「魔物と戦ってこれだけで済んでまだ良かったのじゃ」

「でも……」

「早くここを離れないとまた次に魔物が来るのじゃ」

 他の気配を感じたボスは俺の服を噛み引っ張ろうとしていた。

「せめて最後だけでも……。痛かったよね、僕のためにありがとう」

 俺は自然に涙が出ていた。優しく傷口付近を撫でていると傷口付近が光輝き、皮膚が少しずつ動きだしていた。

「えっ……」

 皮膚が少しずつ盛り上がっていくと傷口は完全に塞がりかさぶたのようになっていた。

 それに気づいた俺は倒れていた狼の元へ駆け寄り優しく撫でるとどの狼も傷が塞がっていった。

「ケント早くするのじゃ」

「ボス、あの子と仲間の子達を連れてって!」

「ガウ!」

 ボスが少女を体の上に乗せると他の仲間達もマネして倒れた狼を自身の体の上に乗せた。

 そこから俺は無我夢中で走ったためいつのまにか川に着いていた。

「はぁ……はぁ……」
 
「ケントいい加減にしろ! 今回は無事で済んだが血の匂いにつられて他の魔物が来てたらどうするんじゃ」

 コロポは何時に無く険しい顔で俺を怒っていた。

「ごめん。でもみんなを見捨てられなかった」

 俺のために命まで必死にかけた狼達を見殺しにすることは俺には出来なかった。

 血を見た瞬間に檻の中で何もできずにただ自分の体を抱えて血を眺めることしかできなかったあの時みたいに……。

「それで魔物が来てみんなが死んでたらどうするんじゃ!」

「ごめんなさい」

 俺もコロポが言いたいことは理解していた。だから心配してくれたコロポに謝ることしかできなかった。

「分かればいいのじゃ。わしも言い過ぎたが命を粗末にしちゃあかんのじゃ。みんながケントとあやつを守るために戦ったのを無下にはしちゃあかんぞ」

「はい」

「じゃあ、帰って……この少女をどうするんだ?」

 コロポはボスの上に乗っていた少女を見てどうしよう迷っていた。

 確かに俺が運ぶにはまだ体が小さな俺では背負っていけないし、放置するわけにも出来なかった。

「このまま運んでもいいのか?」

「ガゥ! ガゥ!」

「だがボスが町に行ったら狙われるだけじゃ」

 ボスは気にしていない様子だったが絶対町が見えた瞬間に他の人達に狙われるだろう。

「そこは説得してみる! ボスには何もしないようにする!」

「ケントが言うならそうするのじゃ。危険と感じたらそこのやつを放り投げてでも逃げるのじゃ!」

「ガゥ!」

 こうして俺達は少女を乗せた狼ボスとともにエッセン町に帰るのだった。