俺は早速依頼を受ける準備を始めた。

「どこが痛いとかはありますか?」

「仕事の影響で腕と腰がいつも痛くなるんだよ」

 俺は辺りを見渡すが流石に床に寝てもらうわけにはいかなかった。

「ならベットをお借りしてもよろしいですか?」

「ああ、こっちに来い」

 俺は言われるがままついて行くと店の二階は住居スペースとなっていた。

「二階が住むところになってるんですね」

「この辺の店は基本的には一階が売り場か作業スペースになってるところが多いからな。それで俺はどうすれば良いんだ?」

「まずは仰向けで寝てください」

 店主は俺に言われた通りに頭側に移動した。

「はじめに首からやっていきますね」

「ああ」

 俺は頸部から肩にかけて触るとギルドマスターの時と同様に全体的に筋硬結が出来ていた。
 
 スキル【理学療法】を発動しながらやったマッサージは鍛冶屋の店主も数分後には虜になっていた。

「ああ、気持ちいい……。あの世に行きそうだ」

 それはそれでやばい気もするが良くなるのであればいいだろう。

「だいぶ硬いですね。後でストレッチの方法も教えるので毎日やってくださいね」

「ストレッチってなんだ?」

 前世でもあまりここまで硬い人はいなかった。

 話を聞いていくとこの世界ではストレッチという概念はないため基本的に痛くなってもそのままにしておくらしい。

 入浴する文化がなければ筋肉は硬く、血流が滞っている人ばかりだろう。

「ストレッチって筋肉を伸ばすことを言うんです。運動前や運動後に軽くすると少し筋肉が動くので血流も改善されて動きやすくなりますよ」

「そうか」

 鍛冶屋の店主はだんだん眠くなってきたのか反応が鈍くなった。

「次は腰のストレッチを教えますね」

 こういう時は何か動く課題を与えた方がリハビリは持続する。

 そのため俺は肘をつけた状態で四つ這いになるジェスチャーをした。 

「小僧何をやっているんだ?」

 見たこともない動きに鍛冶屋の店主も困惑していた。

「今背中のストレッチをやってるんです。腰の部分を山なりにするように意識するだけで少し伸びるんですよ」

 驚いていた店主だが俺に言われた通り動きをマネていた。

「ああ、これは効いてそうだな。ここら辺が伸びてる感じがするぞ」

 しっかり反応をしてくれるため俺としてはやりやすかった。

「これを起きる前とか寝る前に少しやってみてください」

「小僧……いや、ケントだったか? お前のお陰でだいぶ楽になったぞ」

「ちゃんと効果が出てよかったです」

 体を動かしている店主はどこか嬉しそうな顔をしていた。この顔が仕事にはまったきっかけだ。

「そうだ! これが依頼報告書だ!」

 俺は依頼報告書を渡されると、"また次回も頼む。最高のマッサージだった"と一言付け加えられていた。

「こちらこそありがとうございました! 」

 俺はお礼を伝えるとその足で冒険者ギルドに戻って依頼達成の報告した。

 戻ってからも冒険者ギルドではスターチスが待機しており、気づいたら辺りは日が暮れていた。