【F.マッサージをして欲しい】の依頼が鍛冶屋の店主のため俺は次に鍛冶屋へ向かった。

「聞いておいて良かった」

 ハンスの言った通り本当に裏通りにあり、人通りが少ないため事前に人に聞かないとわからないような場所だった。

――ガチャ!

 扉を開けて中に入ると沢山の剣や盾、鎧などが置いてあった。

 他にも鍋や包丁など武器や防具以外にも生活で必要な日常雑貨も置いてあるのは武器屋じゃなくて鍛冶屋の特徴なんだろうか。

「すみませんー!」

――カン! カン!

 奥から鉄を叩く音が聞こえていたが返事は返って来なかった。

「すみませんー!」

「ちょっと待っておれ!!」

 何度も声をかけると怒鳴るような声が返ってきた。
 
 数分待っていると奥からは大柄な男が現れると俺の顔を見るや否やため息を吐いていた。

「ギルドから来たやつか……」

「【F.マッサージをして欲しい】の依頼を受けに来ました」

「またかよ……。やっぱり体型も書いておいた方が良かったんだな。お前らみたいな子どもは帰れ! 」

 ジロジロと俺を頭から足先まで見ると帰るように言ってきた。

「でもマッサージなら……」

「お前みたいな子供じゃ力が弱すぎる。無理してやれば俺とお前も体を痛めるだけだ」

 その発言を聞いた俺は前世を思い出した。あれは外来患者のリハビリをやっている時だった。





「相澤先生とリハビリやっていると調子が良いわ」

「そうなんですか?」

「私昔から凝りが酷かったからよく硬いって言われててね。次の日に揉み返しが来ることが多いんです」

「揉み返しって痛いですもんね」

「だけど相澤先生ってマッサージする時に体をしっかり動かすことがあるじゃない?」

「ああ、そうですね。マッサージだけで良くなる方もいますが、中々それだけでは解れない方が多いんですよ。だから筋肉をしっかり動かしてあげると自然に血流が良くなって解れるんですよ」

「相澤先生って若いのにしっかり教えてくれるから好きだわ」

「ははは、煽てても何も出ませんよ。そういえばストレッチってしっかりやってますか?」

 俺は声をかけると患者さんは気まずそうに外を見ていた。

「ちゃんとやらないとまた硬くなりますからね! 日課にするのは大変ですけど湯船に浸かった後にでもやってくださいね」

「あはは、相澤先生にはバレちゃうわね!」

 患者さんは大きな声で手を叩きながら笑っていた。





 過去にその場で変化はみられても、後日痛みによって生活がしにくいと揉み返しによる痛みを訴える人も多かった。

「マッサージだけだったんですね」

「とりあえず冒険者ギルドには俺から伝えて――」

「いや、僕にやらせてください」
 俺は若干強引に男へ詰め寄った。ここで帰らされるわけにはいかないからな。

「だから――」

「僕のスキルはマッサージに適してるんです」

「ん? そうなんか?」

「だから効果がなければ依頼失敗にしてもらっても構いません」

 マッサージ専用のスキルがあれば良いと思い言ってみたが効果があった。

「それだと依頼達成が0からになるんじゃないか?」

 意外にも鍛冶屋の店主は優しかった。

 過去に依頼を受けた仮登録者がEランク目前で依頼達成が0になって文句を言いに来たことがあったらしい。

 そのため俺を見た瞬間にぶっきらぼうな態度になっていた。

「幸いこの依頼が二件目なので大丈夫ですよ」

「なら小僧に任せるが文句を言うなよ」

 どことなく圧をかけられたがこういう人を味方につければ今後もリピーターになってもらえるだろう。俺はそう確信していた。