それから、二十年の歳月が流れた。 
 僕は就職を機に地元を離れ、東京で暮らしていた。
 中堅の広告代理店でそれなりに忙しい毎日を過ごしていたので、地元に帰ることはほとんど無くなっていた。
 
 そんな日々の中で、タカブーと再会したのは信じられないくらいの偶然だった。
 会社の忘年会で訪れた都内の居酒屋のトイレで、バッタリと鉢合わせたのだ。

 互いに三十を越えていたので、確証はなかったが、「もしかして……タカブーか?」とおそるおそる尋ねると、タカブーの方も「ひょっとして……」と思い出したようだ。

 それから近況について、軽く情報交換した。
 タカブーは三年前に結婚して子供が二人いるらしい。「毎日大変だよ」と、小学生の時と同じく巨大な体を揺らして、豪快に笑った。
 
 「お前の方は?」

 「俺はまだ独身だよ。今は彼女もいない」

 「へえ、この前同窓会行った時にお前に会いたいって奴たくさんいたぞ。今度一緒に飲みに行こうぜ」
 
 ふいにアイカの顔が脳裏を過ったが、僕はすぐにそれを打ち消した。
 二十年前に終わっている話だ。

 偶然の再会がきっかけとなって、タカブーとは頻繁に飲みに行くようになった。

 そして、その日もタカブーから「ここ予約しておいたから、明日飲みに行くぞ」と連絡が来た。

 (こっちの予定も聞かないで、勝手な奴だ)

 僕は苦笑しながらも、タカブーが送ってきたリンク先を開いた。
 
 表示された店の情報を見て、おや?と僕は首を傾げた。
 タカブーが予約したのはいつもの居酒屋ではなく、小洒落たバーだったのだ。

 (タカブーのやつ、何考えてんだ?)

 その時は深く考えなかったが、約束の時間の直前に「すまん、急に行けなくなった。代わりに特別ゲストを呼んであるから」とタカブーから謝罪の連絡が来た時、僕は合点がいった。

 要するに、独身の僕に出会いのきっかけを与えようと気を回したのだろう。
 とはいえ、初対面の女の人を呼ぶわけがないから、おそらく同級生……。

 そこまで考えた時、ドクンと心臓が跳ねた。

 (まさか……)
 
 僕は急いで店に向かうことにした。

 店員にタカブーの名前を出して待ち合わせの旨を伝えると「お連れ様はすでに到着されています」と返ってきた。

 上着を預けてから案内された席に向かうと、一人の女性が腰掛けていた。