結論から言えば、捜索開始から一月が過ぎた頃、僕は奇跡的に妖精と遭遇することになる。
 正確にいえば、遭遇した記憶がある、という曖昧な表現なってしまうのだが。

 その日は朝から厚い雲がかかっていて、夜になるとパラパラと雨が降り出した。
 近所の公園で妖精を探していた僕は小さく舌打ちをした。

 (ちぇっ、ついてないな……)

 傘をさすほどではない霧雨だったが、髪や服が濡れていると夜中に外出していたことが親 両親にバレてしまう。

 僕の両親は大変厳しく、行き先を告げない外出は禁じられていた。
 こんな夜中に無断外出していたことが知られたら、大目玉を食らってしまう。

 その日の捜索は中断するしかなかった。
 僕は虫籠で頭を守りながら、回れ右して家に帰ろうとした。

 その時だった。

 突然僕の目の前にボウリングのボールほどの発光体が現れたのだ。
 発光体はちょうど僕の目線の高さに留まっており、手を伸ばせば触れられそうだった。

 (妖精だ……)

 僕はそう直感した。
 それ以外に、目の前で起きている状況を説明することはできない。
 
 霧のせいで、妖精の周りには光の輪が幾重にも重なっており、神々しさを感じるほどだった。

 妖精は一つの場所にユラユラと浮きつづけている。
 僕に気付いているのか、いないのかはよくわからないが、どちらにしても千載一遇のチャンスであることに変わりはない。

 世界一周旅行は目の前だった。
 僕は虫籠をゆっくり構えると、狙いを定めるために、妖精をじっと見つめた。

 その時はじめて、僕は妖精が小さな人型であることに気づいた。
 眩しさに目が慣れてきたのだろう。妖精のシルエットが明確になっていき、体の凹凸や表情が徐々に見えるようになっていった。

 そして妖精と目が合った瞬間、僕はあやうく虫網を落としそうになった。

 「アイカ……?」

 恋をしたせいで毎日のように見てきたのだから間違いない。
 猫のように切れ長の特徴的な目は、まさしくアイカだった。

 僕が呆然としていると、妖精はゆらりと動き、突然カメラのフラッシュのような閃光を放った。
 あたりは真っ白になり、驚いた僕はその場で尻餅をついてしまった。