放課後、俺と楓は美術室から道具を持ってきて、学校の中を歩き回っていた。
「楓!ここの教室空いてるぞ」
「まじで!じゃあここにしよう!お、海も見えるしいいじゃん」
楓は早速準備を始めた。
美術部は人数が少ない。
そしていつどこで誰と部活をやるのかは自由だ。
唯一1つ決まっているのは、月の最後の週の金曜日の部活は、美術室に集まって講評会を行うことになっている。
テーマやコンセプト、どんな画材を使うかは決められていない。1ヶ月をどう使うのかは自分次第で、それまでに作品を仕上げれば良いのだ。
そして、俺たちの顧問は誰もが見ても美術が好きそうな白髭が特徴のおじいちゃん先生だ。一見何も言わなそうだと思っていたが、いいところも言ってくれて、ちゃんと的確なアドバイスをくれる。
その自由さが、俺には心地よかった。
しかし、俺と楓は1ヶ月のうちの半分以上、いやほとんど部活をしている。
どうやら俺たちは意外と絵を描くことが好きらしい。
俺が絵を描き始める準備をしていると、楓がスマホに顔を近づけながら言った。
手を頭の上にのせて何かを思い出したようだ。
「まって、やばい!俺今日塾があったんだわ、もう帰らないとじゃん!」
楓は一気にソワソワし出した。
「楓が忘れるなんて珍しいな、急いで行きな!また一緒に描こうぜ」
「あったりまえだ!またな、絵橙!」
楓は広げ始めていた自分の道具を急いで片付けた。
その様子を俺は見ていた。
急いでいるせいか、足をバタつかせ、手が踊りを踊るかのように動いたりと、なんともコミカルな動きをしながら道具とブレザーと鞄を持って教室を飛び出して行った。
なんだあの動き。
楓はやっぱり面白い。
俺は思い出し笑いをしながらまた準備を始めた。
外から響いてくる波の音とともに、俺は空を見上げた。
今日はコンポーズブルーのような空に、セラミックホワイトのような雲が所々といったところかな。
俺は空が好きだ。
そしてもちろん、この学校から見える海も好きだ。
毎日違う青色を飾る。
そんなところに自然と惹かれていた。
『コンポーズブルー』
『セルリアンブルー』
『コバルトブルー』
『セラミックホワイト』
頭に浮かんだ色を次々と手に取っていく。
画用液を取り出す。
筆にパレットにペインティングナイフ。
俺は一心不乱に描き始めた。
俺の絵は群青色の世界で満たされていく。
そして俺のからだも群青色に染まっていく。
そして、この群青の中で際立つ白色を丁寧に描いていく。
まるで群青の世界でたったひとつの光のように。